57 決断
「なんやそのスーパーの特売品が売り切れだったみたいな顔は。心配すんなや、事件はわいらマルトクがきっちり解決させたるさかい」
「あ、はい、そ、そうですね……」
「なんや元気ないなあ。後ろの連中も葬式帰りみたいな顔しとるし」
東京へ向かう車の中。
大森さんが助手席に乗る俺を心配して声をかけてくる。
後部座席に座る涼太と神崎も、うつむいたまま一言もしゃべらない。
「これで良かったんだ」
「あん? 何か言うたか?」
「いや、何でもないです……」
目をつぶれば思い出す。
レイの涙。
寂しそうに笑うレイの顔が頭から離れない。
「シェリーはんのことを悪く思わんといてあげてな」
「え?」
「ほらあの人、日本語上手く話せへんやろ? せやから誤解させたんやないかと思うてな」
「誤解、ですか」
シェリーさんは俺たちのことをはっきりと邪魔だと言った。
それは紛れもない事実。
「今回の事件は予想以上に大きな事件や。あんさんたちを危険な目にあわせとうなかったんやろうな」
「いや、そんなことないですよ。俺たちはあまりにも無力だった。これ以上、あの場にいても迷惑をかけるだけですから」
「ハハハ、あんさん真面目やな。誰かに迷惑がかかるとかそんなん気にしてたら何にもできへんで」
「……」
これ以上、事件に首を突っ込めばシェリーさんたちにも迷惑をかける。
それになにより、涼太たちを失いたくない。
これ以上、目の前で誰かが傷つくのを見たくない。
要するに俺は、逃げただけなんだ。
事件から。
現実から――。
本当はただ、怖かっただけ。
逃げ出す理由が欲しかった。
それだけなのだ――。
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「ふー」
俺は、移りゆく景色を眺めながら深く溜息をつく。
少しばかり心に余裕ができた俺は、ある一つの決断を迫られていた。
ここで東京に戻ってしまったらおそらく一生後悔するだろう。
逃げてばかりじゃ何も変わらない。
誰も救えない――ッ!
「あ、あの……」
「なんや? ……遠慮せずになんでも言うてや」
「やっぱり、大阪に戻ってくれませんか」
「なんや? 声が小さくてよう聞き取れんかったわ」
大森さんが俺の顔を見て少しにやけながら言った。
「大阪に引き返してくださいッ!」
「フ……、そういうと思っとったわ。あんさん、昔のわいにそっくりやからな!」
「え、ちょ、ちょっとまっ……」
大森さんが思いっきり急ブレーキをかけた。
その反動で、頭を窓にぶつけそうになる。
そして、ドリフトさせるかのように勢いよく車を反転させると、アクセルを勢いよく踏み込んだ。
「ちいとばかし飛ばすで。しっかりつかまっとれや」
「ひ、ひいい」
そして来た道を思いっきり逆走しはじめる。
「ひゃっはー。せっかくの事件やもんな! 安全な場所で指をくわえてまっとるなんて性に合わんわ!」
「あ、あの、大森さん落ち着いてください!」
「何言うとんのや、引き返してくれって言うたんは夏野はんやないか」
「そ、そうですけど……こ、ここ高速道路ですよ!? ひ、ひいいい、ぶつかるウウウ」
「心配せんでも大丈夫や! わいは運転には自信あんねん! まっとれや一時間で大阪に戻ったるでえええ!」
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「ほら、着いたで! 何をセミの抜け殻みたいなひっどい顔してんねん。戻ってきたからには事件を解決させるんやろ?」
「さ、三半規管がフラダンスを踊ってるんで少し休ませてくれませんか」
「なんや車酔いかいな。あんなんで情けないやつらやのう」
俺は早くも後悔していた。
こんなことになるなら、もっと早くに決断しておくべきだったと――。




