表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/71

56 少女の涙

「う、ううん……」


 その日の夜。

 俺はふと目を覚ます。


 誰かの声が聞こえた。

 そんな気がしたからだ。


 おもむろに立ち上がり、部屋から出ていく。

 薄暗い廊下。


 その先から、何やらすすり泣く声が聞こえてきた。


「う、ひっく……お姉ちゃん…………」


 その声の正体はレイだった。


 レイは俺たちを責めることはなかった。

 姉を探し出すと約束した。

 それなのに、何もできずに帰ってきた俺たちを温かく迎えてくれた。


 自分のことだけでも精一杯なのに、家出した綾子の面倒まで見て。

 無理して笑って、元気づけて。


 唯一の肉親である姉を失い、この子がどんなにつらい思いをしているか。

 そんなの言われなくてもわかるのに――。


 いや、わかってあげなきゃならなかったのに――。


 


---



 それでも俺は、一人泣いているレイに声をかけることはできなかった。

 逃げるように部屋に戻った俺は、そのまま布団に潜り込んだ。


 そして、何度も何度も考えた。


 本当にこのまま帰っていいのだろうか、と。

 確かにシェリーさんは優秀だ。

 強いし、頭も良いし、美人だし。


 だけど――。


 果たして、俺が何もしないで良い理由になるだろうか?

 このまま東京に帰って、今まで通りに高校生活を送る。

 本当にそれで良いのか?


 俺は、何のために関西まで来た?


 いなくなった神崎を探すため?

 いや、それだけじゃない。


 行方不明事件を解決させるために来たんだッ!


 それならば――。




---




「見慣れない車が旅館の前に停まってる?」

「はい……。旅館に入ろうとせずに、不審な男がうろうろしていて、どうしたものかと……」


 レイが不安そうに言ってくる。

 こんな朝早くに休業中の旅館に用があるとは考えにくい。


 逃げ出した俺たちを追ってきたか。

 あるいは、三葉綾子を連れ戻しに来た連中か。


 いずれにせよ、レイを危険な目に合わせるわけにはいかない。


「あの、何か用ですか」


 俺は意を決して不審な男に声をかける。


「おー、探す手間が省けたわ。さあ、はよ車に乗ってや」

「え、ちょ、何するんだよ……」


 すると男は強引に俺を車に乗せようとする。

 やはり、やつらの仲間だったのか?


 抵抗する俺。

 しかしこの男、見かけによらず凄い力だ。


「なんや、はよせえや。わいも忙しいんや」

「何しやがる。俺をまた捕まえる気か!?」


 俺は叫びながら男の手を振りほどく。


「……? なんやあんさん。シェリーはんから何も聞いてないんか?」

「しぇ、シェリー?」


 ということはこの男は敵ではなく……。


「そうや。わいはマルトクの大森小三郎っちゅうもんや! よろしくな、夏野君!」

「は、はぁ……。ところでマルトクってなんですか?」

「なんやそんなことも知らんのかいな。特殊訓練兵を略してマルトクや!」


 どこをどう略しているんだろうか。

 まあいいや。


「それで、大森さんは何しに来たんですか」

「何って、東京に帰るんやろ? やつらに狙われる危険性がゼロっちゅうわけやない。せかやら、わいが車で送ったるわ」


 なるほど、護送というわけか。

 交通費もなかったし都合が良いな。


「分かった。涼太たちを呼んでくるから少し待っててくれ」

「あいよ」


 俺はそう言い残して旅館に戻ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ