55 勘違い
「なあ、海斗。お前、このままで良いのか?」
「良いって何がだよ?」
「このままシェリーに言われた通り東京に帰るのかって聞いてんだよ」
「あー、そのことか……」
夕食後、風呂に入っている時のことだった。
いつになく涼太は真剣な表情でそんなことを聞いてくる。
俺はぼんやりと夜空を見上げながら深く溜息をつく。
事件を解決させてないのに帰りたくなんてない。
だけど――。
「俺たちは所詮、ただの高校生だ。行方不明事件を解決させるなんて無理な話だったんだよ」
「海斗……」
言葉が詰まる。
胸の奥がもやもやする。
このままここに残っても俺たちにできることなんて何もない。
それどころか誰かに迷惑をかけてしまうことだろう。
「だから、帰ろう。後のことはシェリーたちに任せてさ……」
自分で言いながら、なんだか釈然としない。
――俺の選択は本当にこれで良かったのだろうか?
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「おー、神崎。お前も風呂に入ってたのか?」
「せや。綾子ちゃんたちと一緒になー。めっちゃ気持ち良かったでー」
風呂から上がったところで、ちょうど神崎と出くわした。
旅館の少年や、三葉の少女も一緒だ。
三人仲良く一緒に風呂に入ってきたらしい。
さすが神崎だ。
誰とでもすぐに打ち解けることができるのだから。
「あれ……?」
ちょっと待てよ?
なんかおかしいぞ?
「おい、美穂! お前、こいつと一緒に風呂に入ったのか!?」
涼太もそれに気付いたらしく、少年を指差しながら叫ぶ。
「そうやけど、それがどうかしたん?」
「どうかしたんじゃねえよ。いくら小学生くらいの子どもだからって一緒に風呂はさすがにまずいだろうが!」
「……?」
神崎は狐につままれたような顔をしている。
「あの、すみません。やっぱり、お客様と一緒にお風呂はまずかったですかね?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
少年がペコペコと頭を下げる。
なぜだか話が噛み合っていない。
「もー、涼ちゃん。さっきから何なん? 女同士で風呂に入って何がおかしいっちゅうんや!」
「いや、だからさ……って、女同士……?」
「そうや。まさか涼ちゃん、レイちゃんを男の子やと思ってたん?」
俺と涼太が顔を見合わせる。
そこではたと気が付いた。
少年ではなく少女だった、と。
「えええええっ!?」
二人の叫び声が旅館内に響き渡った。
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「全く、失礼な人たちやなー。ねー、綾子ちゃん?」
「本当ですの。レイはどっからどう見ても女の子ですのに!」
俺と涼太は神崎たちに冷たい視線を浴びせられる。
「すみません、ボクがはっきりと言わなかったせいで誤解させてしまったみたいで……」
「こちらこそ、ごめんなさい。てっきり男の子かと……」
「いやいや、姉にもよく男の子みたいだって言われてましたから」
レイは気にする様子もなく、ニコッと微笑む。
「まぁ、ボクのことは気にせず、今日はゆっくりと休んでってくださいね。帰るのは明朝なんですよね?」
「え、ああ……そうだな……」
俺たちは明日の朝、シェリーにもらった交通費で東京に帰る予定だ。
レイたちともお別れだ。
これで良いんだ。
自分に何度も言い聞かせる。
俺にできることなんて何もないのだから――。




