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54 少女の笑顔

「へぇ、あの三葉の社長の娘なんかー」

「そうなんだよ、俺も聞いたときは驚いたぜ」

「それで、なんでそんな大企業の娘がこんなところにおるん?」

「あっ……」


 そうだ。

 この子を早く家に帰さないと大変なことに……。


「イヤ! 私は帰らないわ。ここで住み込みで働くことにしたの!」

「おいおい、ワガママいうなよ。君の両親だって心配してるんじゃないか?」

「……お父様は私のことなんて心配するはずないわ。いつも仕事のことで頭いっぱいだもの!」

「で、でもさ、ボディーガードまでつけてたんだ。心配してないはずないよ」

「あれは私を監視するために仕方なくそうしてるだけよ」


 少女は寂しそうにうつむく。


「監視って……実の娘を監視するなんてことするわけないじゃないか」

「いいえ、お父様は私のことなんてどうでもいいと思ってるのよ。だから今頃、清々してるでしょうね。邪魔者がいなくなったって……」

「そ、そんな……」

「そう、つらかったんやな」


 神崎はそう言いながら少女を抱きしめた。

 


---




「皆さん、夕食の準備ができましたよー」

「夕食……」


 俺は今朝の出来事を思い起こしていた。

 まさか夕食も卵料理オンリーなのだろうか。

 そんな不安が脳裏をよぎる。


 しかし――。


「おお、鍋か!」

「こりゃー、うまそうやなー」


 予想に反して、目の前には至って普通の鍋料理。


「綾子に手伝ってもらったんですよ。ボク、料理できないから……」

「あー、なるほど」

「へぇ? でもお金持ちのお嬢様が随分と庶民的な鍋料理を作れるなんて意外だなあ」

「おい、涼太……」


 少女はお嬢様扱いされることを凄く嫌うのだ。


「昔ね、お父様とお母様と三人でよく食べてたんです。あの頃は、楽しかったなぁ」

「昔……? じゃあ今は?」

「……お父様は変わってしまった。お母様が死んでから、何かに憑りつかれたように仕事ばかりするようになって……」

「あー、そういえば三葉グループって急成長したのってつい最近だったな」


 ほとんど名前も知られていないような企業だった三葉。

 それが今では俺でも知ってるくらいの超有名な企業になった。

 その躍進ぶりは連日ニュースでも取沙汰されるほどだ。


「……そういや三葉の社長ってあのテレビなんかでもよくみる三葉幸太郎だよな? ってことは……」

「ええ、そうよ。三葉幸太郎が私のお父様なの……」


 あー、あの人か。

 確かに仕事一筋って感じだったなあ。

 てっきり独身なのかと思ってたけど。


「おう。食わないならこの肉は俺がもらうぜ!」

「あー、何しやがる! その肉は俺がキープしてたんだぞ!」

「ハハ、鍋は早いもん勝ちさ!」


 全く油断も隙もないやつだ。


「フフッ、フフフ……アハハハ」

「綾子さん? どうしたんや急に」

「ううん、やっぱりみんなで食事すると楽しいなって思って」


 少女はそう言って嬉しそうに微笑んだ。

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