53 ウソツキ
「お、応急処置……?」
「そうデース。長谷川は腹を怪我していたデース。だから早急に治療したネ」
「あ……」
そういえば、涼太はやつらに捕まる時に腹部をナイフで刺されたんだった。
本人はかすり傷とか言ってたが、あれほどの出血量だ。
かなりの大怪我だったはず。
それなのに、涼太はそんな素振りを見せることはなかった。
「じゃ、じゃあ、もう大丈夫……なのか?」
「大袈裟だなあ。かすり傷だって言っただろう? 傷だってすぐに塞がったし全然大したことなかったよ」
涼太は笑いながらそう言った。
「ゴホン。問題なのは刺し傷ではナイのデース」
「……というと?」
「長谷川は以前、例の実験で傷が治りやすい体質になってしまっているのデス」
「ほほう。傷が治るなら便利で良いじゃねえか。それの何が問題だって言うんだ?」
「問題ありまくりデース。細胞分裂速度が異常をきたせば際限なく熱が上がり、身体が耐えられなくなってシマイマース。だから応急処置として細胞分裂の活性化を抑える薬を投与シタネ」
ごくりと息をのむ。
そうだ。
あの時も涼太は高熱を出して――。
「フゥー。アナタたちは危機感がナサスギネー。ワタシがいなかったらどうするツモリだったのデース? あと数分でも処置が遅れていたら長谷川は死んでいたかもシレナイのデスヨー?」
「えっ?」
「この薬は、例の地下研究所のサンプルをもとに我々特殊訓練兵が作り出したものデース。つまり、簡単には手に入る代物ではナイのデース。偶然、ワタシがいたから良かったモノノ、今後はそうもイキマセーン。ワタシが言いたいことワカリマスカー?」
「……?」
シェリーの言葉に三人が首を傾げる。
「回りくどい言い方はナシネ、はっきりとイイマス。アナタたちはジャマなのデス、足手まといデス。とっとと東京に帰りやがれなのデース」
「えっ? ちょ、ちょっとまってくれよ。俺たちは別に邪魔をする気なんてないし、早く事件を解決させようと……」
「ソレがジャマだと言ってるのデース。今回の敵だって長谷川がこんな状態でなければ全員捕まえることもできたのデスヨ?」
「そ、それは……」
「付け加えて、もしワタシが二人を助けにこなかったら二人は間違いなく殺されてイマシタ。それは流石に理解してマスヨネ?」
「……」
確かにそうかもしれない。
なんとか自力で縄は解くことができたけど、あの人数相手に涼太と二人じゃ切り抜けることは不可能だっただろう。
だけど――。
「で、でも……俺は約束したんだ。旅館の少年の姉を無事に連れ戻すって! だから、俺は……ッ!」
「フゥー。その正義感は素晴らしいデース。でもアナタたちにはそれをやり遂げる力がアリマセーン。力のないモノが事件の首を突っ込むのはとても危険なことなのデース。もう一度イイマス。とっとと東京に帰りナサイ!」
「うぅ……」
俺はそれ以上シェリーに反論することはできなかった。
常々感じていたことだ。
俺はあまりにも無力だと――。
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「ただいまー」
「あ、お帰りなさいませ。どうでした、姉は見つかりましたか?」
旅館に戻った俺たち。
少年がパタパタと駆け寄ってくる。
顔を合わすのがつらい。
結局、姉は見つけられなかった。
それどころか、俺は――。
「ごめん、俺には無理だった……」
「えっ?」
「で、でも心配はいらないよ。俺なんかよりずっとずっと強くて頼りになる人たちが事件を調査してくれることになったからさ」
無理やりに笑顔を作る。
なんとか少年を安心させたかった。
いや、違う――。
俺は嫌われるのが怖かったのだ。
少年に『ウソツキ』と言われたくなかった。
ただ、それだけなのだ。
「そ、そう……ですか」
少年はどこか寂しそうに呟いた。
「……あ、お腹空いているでしょう? すぐに夕食の支度してきますね!」
「いや、でも……」
少年は、そのまま奥の厨房へと入ってしまう。
「夕飯なんて良いのに……。俺は何もしてない。ここで飯を食う資格なんて……」
「海斗、あまり落ち込むなよ? あの少年が作るって言ってんだ好意は素直に受け取ろうぜ?」
「だけどさ……」
「そういや、あの子はどこいったんだろうな?」
「あの子?」
「ほら、三葉のお嬢さんだよ。今朝、ここに預けただろうが」
あぁ、そういえば見かけないな。
無事に家に帰ったのだろうか。
と思ったその時だった。
「海斗ーッ!」
「うわっとっと。びっくりした。急に抱きついてくるなよ」
噂をすればなんとやら。
例の少女にいきなり後ろから抱きつかれてしまう。
「なんや、カイちゃん。そんなちっさい子を誘惑しとったんか?」
「ち、違うぞ。この子はだな……」
俺は、今までの経緯を神崎にも話すことにしたのだった。




