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50 脱出

「おい、涼太! しっかりしろ涼太ぁ!」

「う、うぐぐ……」


 脇腹を刺され悶え苦しむ涼太。

 俺は刺した男を睨み付ける。


「……てめえ、よくも涼太をッ!」


 そして、勢いよく殴りかかる。

 しかし、あっさりと避けられ無防備となった腹を思いっきり蹴飛ばされた。


「ぐあ……」

「おうおう、こっちのガキは大したことねえなあ?」


 男は薄気味悪い笑みを浮かべながら俺の胸座を掴む。


「おい、こいつらを例の場所に連れて行け」

「はいッ!」


 目隠しをされ、両手を縛られる。

 そのまま車に押し込まれ別の場所へと連れて行かれた。



---



 あの時と同じじゃないか。

 後先も考えず、敵に突っ込んであっけなく捕まって……。


 どうして俺は、こんなにも弱いのか。

 誰一人として守ることすらできないのか。


 俺は結局、あの事件から何も変わってない。

 いや、変わろうとすらしていなかった。

 早く事件を忘れよう。

 それだけを考えていた。


 涼太は、違った。

 もう二度と同じような事件を起こさないために、西崎先生に格闘術まで教わっていた。

 そんなの俺は全く知らなかった。

 涼太はそんな素振り全く見せなかった。

 俺に心配させまいとしていたのだろう。


 それなのに俺は――。


 ガダン。

 近くにあった金属製の箱を思い切り蹴飛ばす。


 どうして、俺はこんなにも無力なのだ――。


「海斗? そこにいるのか?」

「りょ、涼太? お前、怪我は大丈夫なのかよ!?」

「ああ、心配いらないよ。かすり傷さ」


 かすり傷――?

 いや、そんなはずはない。

 だって、あんなに血が出ていたじゃないか。


「涼太、無理すんなよ。俺がなんとかここから脱出する方法を考えるからさ」


 幸いなことに、犯人たちの気配はなかった。

 あの金属製の箱を蹴ったときに誰も来なかったことから考えてもそれは間違いないだろう。

 逃げ出すなら今しかない。


 だが両手は後ろ手に椅子に縛りつけられていて動かすことができない。

 目隠しをされているため、部屋がどうなっているのかもよくわからない。

 だが、声の反響音から考えるとこの部屋はそんなに広くないようだ。

 涼太と俺の距離は大体一メートルから二メートルってところか。


 部屋は散らかっているのか、足元にはさっきの金属製の箱以外にもいろいろ落ちているようだ。

 何か使えるものがあるかもしれない。


「おい、海斗? さっきからガサガサと何をしているんだ?」

「足は自由に動かせるからな。何か脱出に利用できるものがないか調べてるんだ」


 足の届く範囲をバタバタと動かして、近くにあるものをかき集める。

 木の棒のようなもの、金属製の箱、そして雑誌のような何か。


「よし、これだ」


 木の棒を足で挟みこむ。

 そして、目隠しをしている布のほうへと押し当てようとする。


 ガコン。

 目測を誤り、思い切り頭にぶつけてしまう。


「いてて」

「おいおい、海斗。無茶すんなよ?」

「へへ、大丈夫だ。今のでなんとか目隠しも取れたしな」


 部屋を見渡す。

 思った通りだ。

 狭い部屋に俺と涼太の二人きり。


 天上には電球が一つついているだけだった。


 足元には本やら何かの工具が散乱している。


「ふむ、何かの作業場か?」


 しかし、手の縄をほどけるようなものは見当たらなかった。

 いや、ないなら作るまでだ。


「涼太、少し身をかがめてろ」

「んあ?」


 俺は涼太にそう注意を促す。

 それと同時に、金属製の箱を思い切り宙に蹴り飛ばした。


 ガシャン。

 電球が音を立てて割れる。


 その破片がばらばらと空から降ってきた。


「ぐぬぬ、涼太、もう少し左手を伸ばせ。そうだ」

「こうか?」


 そして、足を目いっぱい伸ばし涼太の手の縄を電球の破片で切ることに成功する。


「おお、やった」


 両手が自由になった涼太は素早く目隠しを外す。

 そして、俺の手の縄を解いてくれた。


「やるじゃん、海斗。まるで脱獄のプロみたいだぜ!」


 涼太がニヤリと笑う。

 俺もつられて笑った。


 しかし、安心したのも束の間。

 誰かが近づいてくる足音がする。


「まずい、やつらが帰ってきた!?」


 出入り口が一つしかない狭い部屋。

 隠れられそうな場所はない。

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