46 老舗の旅館
「いやー、良かったな海斗! 一時はどうなることかと思ったぜ」
「全くだよ。涼太が後先考えずに全財産使っちゃうからだぞ。危うく野宿しなきゃならないところだったじゃないか」
俺たちは今、老舗の旅館に宿泊している。
割と大きな旅館で、タダで泊めてもらうのは気が引けるくらい立派な部屋だった。
「よっしゃ、海斗。大浴場に行ってみようぜ! なんでも天然の岩風呂が……」
「お前なあ、遊びに来てるんじゃないんだぞ?」
まるで修学旅行にでも来たかのようにはしゃぐ涼太。
本来の目的を見失ってる気がする。
俺たちは神崎の後を追って、行方不明事件の調査にやってきたのだ。
こんなところでのんびりとしてる場合じゃない。
「海斗は真面目だなあ。今日一日歩き回ったんだ。温泉にでも入って疲れをとらないと身体も持たないぜ?」
「そりゃそうだけど……」
確かに、たこ焼き店で出会った女子高生たちに話を聞いてあちこち動き回ったからな。
結局、何の成果も得られなかったけど。
疲れて公園のベンチで休んでいるところをこの旅館の跡付きを名乗る少年に声をかけられた。
それで、この旅館に泊まることになったのだが――。
「でも、なんだってタダで泊めてくれるんだろうな?」
「部屋が空いてるから構わないとは言っていたが……」
温泉に入りながらそんなような話をする。
他の客は見当たらない。
こんなに大きな老舗旅館なのに。
やはり、少し警戒はしておいたほうがいいかもしれないな。
関西を中心に起きている行方不明事件。
もしその原因がこの旅館だったとしたら――。
「あの少年が怪しい? 海斗は疑心暗鬼すぎじゃねえか?」
「涼太は少し人を疑ったほうが良いと思うぞ。そんなんだから白井にだって騙されて……」
いくらなんでもタダで他人を泊めるなんて虫が良すぎる。
疑心暗鬼だってなんだっていい。
とにかく自分の身は自分で守らなければならない。
涼太の分まで俺がしっかりとしなければ――。
「やあ、お湯加減はどうですか?」
そんなことを考えていると、旅館まで連れてきてくれた少年が笑顔で尋ねてきた。
「おう、気持ちいいぜ! 他の客を見かけないけど、宿泊客は俺たちだけなのか?」
涼太が尋ねる。
少年は少し困った顔をした。
やはり俺たちをここに招いたのには理由があるのか?
「何かあったんですか? 俺たちで良ければ力になりますよ?」
探りを入れるつもりで俺は優しく少年に訪ねる。
すると、少年は顔を強張らせながらもごもごと口を動かした。
「実は……」
何かを言いかける少年。
しかし、顔をあげるなり顔を赤くしていきなり脱衣所のほうへと走り去ってしまった。
「なんだありゃ」
「うーむ、絶対何かを隠しているな」
怪しい。
怪しすぎる。
「なあ、涼太。やっぱり、今のうちにこの旅館から出たほうが良いんじゃないか?」
「何言ってんだよ。このクソ寒い時期に外で寝たら凍死しちまうよ」
風呂から上がり、旅館の一室でくつろいでいる涼太。
全く危機感というものを持ち合わせている様子はない。
「さっきの少年の態度見ただろ。もしかしたら俺たちのことを――」
「ハハハ、海斗は本当に心配性だなあ」
俺が何を言おうと涼太は動じない。
それどころか、さっさと布団を敷いて眠ろうとしている。
「おい、涼太? 涼太ってば! くそ、もう寝てやがる……」
こんな状況で眠れるなんてどういう神経してるんだコイツは。
どうしよう、涼太を置いて一人で逃げるわけにも行かないし。
「ああもう、どうなっても知らんからな!」
仕方なく俺も眠ることにしたのだった。




