番外編1 クリスマス
「よっしゃ、クリスマスパーティーしよか!」
神崎が突拍子もなくそんなことを言いだした。
「く、クリスマスパーティー?」
「なんや、カイちゃん。パーティーしたことないんか? みんなでサンタクロースの格好して、ケーキを食べたりして盛り上がるんや。どや、楽しそうやろ?」
「いや、そうじゃなくてだな」
あんな事件があったというのに、パーティーだなんて――。
「なあ、ええやろ? 涼ちゃんもパーティーしたいやろ? な?」
「お、おう、良いんじゃないか? うん、やろうぜ」
涼太はすっかり神崎の言いなりだ。
「うーん、どうしようか奈央」
「アハハ、美穂は言い出したら聞かないから何を言っても無駄だと思うな」
さすが神崎の親友。
よくわかってらっしゃる。
そうなのだ。
神崎は一度言い出したら聞かないやつなのだ。
今回もきっとそう。
例え俺たちが反対したとしても、サプライズだとかいって決行するに決まっているのだ。
だったら――。
「よし、やるか。クリスマスパーティー」
---
「……それで、なんで俺んちなんだよ。普通、発案者の家に招待するとかじゃねーの?」
「えー、そんな決まり聞いたことないで? それにうち、狭いから四人も入れないやん?」
「だったら、涼太の家で良いだろ。俺の家より広いんだしさ」
「残念でした。俺の家は彩夏が使うんだってよ。なんでもクリスマス女子会をやるとかやらないとか」
「なんだよクリスマス女子会って」
まあ別に俺の部屋を使うのは一向に構わないんだよ。
ただ――。
「部屋を荒らすんじゃねえよ。お前はここに何をしに来たんだ」
「何って、クリスマスパーティーに決まってるやろ?」
「なら、部屋を物色するのはやめてもらって良いかな」
「ええやん別に。見られて困るもんでもあるんか?」
「い、いや、別にないけどさ……」
そういう問題じゃないんだよ。
はぁ、神崎はどうしてこうも自由奔放なんだろうか。
そういえば、涼太や山田の家に行ったときもこんな感じだったっけ。
---
「海斗ーッ!」
一階のキッチンのほうから姉の叫ぶ声がする。
「なんだよ、騒々しい」
「やっときたか。あんたも少しは料理くらい手伝いなさいよ」
「なんで俺が? 姉ちゃんが全部、自分で料理作るから心配いらないって豪語したくせに」
「だってぇ、海斗が家にお友達を連れてくるなんて数百年振りよ? おもてなししないわけにはいかないでしょう?」
「はいはい、どうせ俺は友達が少ないですよーだ」
俺の姉は昔っからこうだ。
料理なんて出来もしないくせに見栄を張るからこんなことになるんだ。
「あ、あの」
俺と姉が慌ただしく料理の支度をしていると、奈央がやってきた。
どうやらなかなか二階に戻らない俺を心配して様子を見に来たらしい。
「私も手伝いますね」
「あら、さすが海斗の彼女さんね。将来は良いお嫁さんになるわよー?」
「ね、姉ちゃんッ!」
そんなこんなで、クリスマスパーティー用の料理を作り始める。
「おっと、いけない。そろそろデートの時間だわ」
「はい? 料理も途中なのに何を言ってんだよ」
「いやー、ごめんねえ。お姉ちゃん、こう見えて忙しいの。フフフ、じゃあ、後は任せたわよ」
そう言って、姉は出掛けてしまった。
取り残される俺たち。
あの姉、結局料理を作ると言っておきながら散らかしただけじゃねえか。
「……デートがあるのに直前まで料理の準備させちゃって悪いことしたな」
奈央が申し訳なさそうに呟く。
「良いんだよ、どうせ嘘だし」
「え?」
「出かけるときの格好見ただろ? あれはいつものバイトに行く格好だ、デートなんかじゃないよ」
全く、本当にうちの姉は見栄っ張りなんだから。
結局、二人で料理を作ることになってしまった。
「……なあ、奈央」
「うん?」
「いや、なんでもない」
うーん。
こういう時ってどんな会話をすりゃいいんだろうか。
分からない。
付き合うことになったとはいえ、以前と何にも変わってない。
デートすらしていない。
あれ?
これって付き合ってると言えるのだろうか。
「奈央の弟は元気か?」
「大地? うん、元気だよ」
無理やりの話題作り。
しかし、一瞬で会話は終わってしまう。
何か、何か話題を――。
「涼太たち、急に静かになったな」
「う、うん、そうだね」
さっきまで神崎のうるさい声がこっちにまで届いてたっていうのに。
うん、待てよ?
奈央が今ここにいるってことは、涼太と神崎は俺の部屋で二人きり。
まさか――。
---
「うるぁ、お前ら俺の部屋で何やっとんじゃーッ!」
俺は勢いよく部屋の扉を開けた。
「お、カイちゃん遅かったやん。もうこっちは準備万端やで」
「え?」
よく見ると部屋に飾り付けがしてあった。
いつの間にこんな飾りを――。
「いやー、クリスマスパーティーだなんて初めてやわー。うちな、すっごく楽しみにしてたんやで」
目を輝かせながら神崎が言う。
神崎がクリスマスパーティーにこだわっていたのは理由があった。
神崎の両親は神崎が幼いころに離婚したらしい。
だから、クリスマスもずっと一人ぼっちだった。
あんな事件があったからこそ、今この瞬間を楽しみたい。
そんな想いがあったのかもしれない。
---
「ハッピーバースデーカイちゃん!」
「誕生日じゃねえよ! こういうときはメリークリスマスだろ?」
「ああ、そうやった! 慣れてないから間違ってしもうたわー」
無邪気に笑う神崎。
「メリークリスマス!」
それならば、今を楽しもう。
つらいこと、悲しいこと、全部忘れて。
神崎のように、強く笑っていられるように――。




