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43 過去を乗り越えて

「おう、海斗。今までどこいってたんだ?」

「ああ、ちょっとな」


 教室に戻ると、涼太がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「いやあ、海斗も隅に置かねえな。授業サボって奈央ちゃんとイチャついてきたんだろ?」

「は? 奈央がどうしたって?」


 何をわけのわからないことを言ってるんだコイツは。

 そう思いながらも教室を見渡す。


 するとあることに気付く。


「奈央が……いない?」

「なんだ海斗、奈央ちゃんと一緒じゃなかったのか? 昼休みが終わっても二人が帰ってこなかったからてっきり……」


 どういうことだ?

 まさか――。


「おい、海斗。どこいくんだ、おい」


 涼太の制止を無視して俺は教室から飛び出した。


 例の組織の連中が奈央を……?

 いや、ここは特殊訓練兵に守られている学校だ。


 じゃあ、一体どこに――?

 わからない、わからないけど、なんだか嫌な予感がする。


 メリアンダさんが立ち去った、あの時と似たような感覚。

 もう二度と奈央に会えないような、そんな不安が押し寄せてくる。


 ――イヤだ。


 もう何も失いたくない。

 もう誰にもいなくなって欲しくなんかない。


 俺は、一人じゃ生きていけないのだから――ッ!





---





「ハァハァ、奈央、良かった。ここにいたのか……」

「あ、海斗」


 中庭の慰霊碑を前に佇む奈央を発見した。


「何やってんだよ、こんなところで。心配したじゃないか」

「う、うん……。ごめん。海斗がいなかったから探してたんだ」

「え……?」


 ああ、そうか。

 俺が授業なんてサボったりしたから――。


 ハハ、バカだな俺は。

 心配をかけてたのは俺のほうだったなんて――。


「お、おう、悪い。ちょっといろいろ考え事をな」

「……ごめんね、海斗」

「なんでお前が謝るんだよ」

「だって、私があんなことを言ったから……」


 奈央は今にも泣きだしそうだ。


「なんのことだ?」

「え、だから、私が海斗のことを好きだなんて言ったから負担になってるんでしょ?」


 ――違う。

 俺はただ弱いだけだ。

 

 奈央の言葉を受け止める自信がない。

 ただそれだけだったのだ。


 だから――。


「奈央は何も悪くない。悪くなんてないよ」


 そういって奈央を抱きしめた。





 悪いのは、全部俺なのだから――。


 でも、もう逃げ出したりしない。

 迷ったりしない。


 全てを受け入れて、そして全てを乗り越えていく。

 そうやって、全力で生きていくことこそが残された俺たちにできる唯一の罪滅ぼしなのだから――。


「奈央、ごめんな。俺、もっと強くなるよ。それで、あの事件ともちゃんと向き合う」


 そうだ。

 あの事件のことは、忘れてはならないこと。 

 つらくて現実から目を背けたくて、俺は逃げ続けていた。


 神崎の言うとおりだった。

 俺も涼太と一緒なのだ。


 あの時の俺は涼太を助けるために必死だった。


 自分は涼太とは違う、どんなことがあっても現実から逃げ出したりなんてしないのにって本気でそう思っていた。

 だけど、違った。


 俺は弱い。


 もし、俺の前に白井が現れて素敵な世界があると言われたらどうなるだろうか。

 悩まずに暮らせる世界があるのよ、と小説を片手にそそのかされたら――。

 知らず知らずのうちに異世界へと誘われ、実験に利用され、そして――。




 悩みのない理想の世界。

 それはそれで素晴らしいのかもしれない。


 だけど――。


 悩んだり苦しんだりしながらそれでも生きていく。

 そっちのほうが人間らしいって、そう思える。


「奈央、これからもよろしくなっ!」

「えっ? ええっ?」


 うん、悩んだっていいじゃない。

 苦しんだっていいじゃない。


 春になったら桜が咲くように。

 辛いことだって乗り越えられたら、きっと素晴らしい花を咲かせてくれるのだから――。

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