40 希望の光
「な、なぜ……この私が……」
白井が赤く染まった手を見つめながらつぶやいた。
「ふ、ふふ……。結局、私は何も手に入れることはできなかったのね……」
寂しそうに笑うと、そのまま力尽きる白井。
「危ないところだったな。だが、もう大丈夫だ」
「西崎先生!」
暗闇から現れた特殊訓練兵の西崎先生。
手には懐中電灯型の銃が握られていた。
どうやら西崎先生が俺たちを助けてくれたようだ。
「やるべきことがあったのでは?」
「ああ、それなら心配いらない。彼女は無事に連れてきたよ」
青木が手招きすると暗闇からよろめきながら一人の女性が歩いてきた。
「メリアンダさん!」
「メリアンダ……? ああ、そうか、彼女はそう名乗っていたのか」
その女性は以前、俺の命を助けてくれたメリアンダさんに瓜二つだった。
「どういうことですか、西崎先生はメリアンダさんと知り合いだったのですか?」
「いや、彼女はメリアンダではないよ」
「……?」
「彼女の名前は、和久井由美。青木が救い出そうとしていた人さ」
「じゃ、じゃあ、メリアンダさんは……」
どうやら、和久井さんはクローンであるメリアンダさんの元となった人物のようだ。
「そうでしたか、私を救ってくれたのはそのメリアンダさんなのですね……」
和久井さんが優しそうに微笑みながら言った。
話によると、メリアンダさんは自ら申し出て和久井さんに臓器を提供したそうだ。
自分の命と引き換えに、彼女を助けたのだ。
どうせ死ぬ運命ならば足掻いても無意味。
メリアンダさんはそう言っていた。
彼女はこうなることを覚悟していたのかもしれない――。
それでもなお、彼女は選択したのだ。
和久井さんの一部となることを。
メリアンダさんはやさしい人だった。
困ってる人を見たら、放っておくことができないような人だ。
だからこそ、病気で苦しむ和久井さんを助けることにしたのだろう。
それが自分の命と引き換えになる行為だと分かっていたとしても――。
「このような形で生き延びるのは、すごく辛いですね。彼女はまた私のように生きていたかったでしょうに……」
「そうかもしれません。でも、和久井さんが責任を感じる必要なんてないと思いますよ。だって、そうでしょう? メリアンダさんは、和久井さんの幸せを誰よりも願っているはずなのだから……」
それが正しいことだったかどうかなんて俺にはわからない。
青木のやったことを正当化なんてできるはずがない――。
それでも、こうして救われた命があるのもまた事実なのだ。
「よし、扉をあけるぞ」
そう言って、西崎先生が鎖の扉に手を置いた。
「とりあえず今は、ここから出よう。全てを公にし、二度とこのようなことを繰り返さないようにしなければならない」
「ええ、そうですね」
重い鉄の扉がゆっくりと開いていく。
隙間から眩しいくらいの太陽の光が燦々と降り注いできた。
「うお、眩しいッ」
涼太が叫ぶ。
その横で、奈央がうずくまって泣き出してしまった。
「奈央、どうした? まだ具合が良くないのか?」
「ううん、違うの。私ね、もう二度と地上に戻れないんじゃないかって、不安で不安でたまらなかった……。何度も死を覚悟したわ……。でもこうして、無事に太陽を拝むことができて……嬉しいはずなのに、どうしてかな。涙が止まらないの」
「うん、そうだね。太陽がこんなにも明るかったなんて、知らなかったよ」
真っ暗だった世界を太陽の光が照らしていく。
絶望に降り注ぐ希望の光のように。
こんなにも明るくて、こんなにも眩しくて、こんなにも偉大で。
いつも見ていたはずの太陽がこんなにもありがたく感じるなんてなんだかとても不思議な気分だった。
「外に出れたからといって、安心はするなよ? 政府の人間が俺たちを消そうとしてくるかもしれんぞ」
「もうザッキーはもう少し空気を読んでや。せっかく、外に出た感動を分かち合ってるいうのに、水を差さんで欲しいわー」
「な、なんだと、俺は事実をだな……」
そうだ。
俺たちはまだ助かったわけじゃあない。
大変なのはまだまだこれからだ。
それでも、俺は不安な気持ちなんてこれっぽっちもなかった。
だって、そうだろう?
俺には、かけがえのない仲間がいるのだから――。




