39 守りたいモノ
「利用だなんて人聞きが悪いわ。アイツが勝手にやったことよ。ま、今となってはそれもどうでもいいことよ。今回の実験は失敗だもの。用済みとなった青木も消してくれて感謝してるわ。ふふ、あとはこの地下施設と共に全てを闇に葬るだけね」
「そうやって、全てを無かったことにしてまた新たに実験を再開させる気ですか……」
「ええそうよ。私は私の目的のために行動している。ただそれだけ。誰にも邪魔はさせないわ」
暗闇に人の気配がする。
白井の背後に数人、護衛がついているようだ。
俺たちだけで彼女を取り押さえることは難しいかもしれない。
だけど――。
ここで白井を止めなければ、また次の実験で数多くの人が犠牲になってしまう。
「ふふ、無駄よ。あなたたちはすでに囲まれているわ。どうせ何もできやしない。おとなしくしていれば、あなたたちの命は助けてあげても良いのよ? ただし、実験の道具としてだけどね。うふふ、アハハ、アーッハハハ!」
高笑いする白井。
「こ、こんなのおかしいよ……同級生も実験に巻き込むなんて……ッ! 大谷さんや中村さんは、白井さんの友達だったんじゃないの? なんで、どうしてこんなことができるの!?」
奈央が白井に問いかける。
しかし、白井は頬を緩ませこういった。
「友達? バカ言わないでよ。私が信じているものは自分だけよ。あなたたちだって、そうでしょう? 本心では、自分が一番。他人のことなんてどうでもいい。そう思っているはずよ」
「そんなことはない!」
「アッハハハ! 口だけでは何とでも言えるわ。そうね、じゃあこうしましょう」
白井はおもむろに俺たちを指差してこう言った。
「傍にいる誰かを殺した人だけ、この地下から逃がしてあげるわ。もちろん実験にも利用しない。今日の出来事さえ誰にも言わないというのなら、今まで通りの暮らしに戻れるわ」
「はぁ? あんた何言うとるんや!」
「ふふ、分かりにくかったかしら? 例えば神崎さんが小林さんを殺せば、ここから生きて出られるのよ? 悪い話じゃないでしょう? 助かりたかったら、私の言うことを聞いておくほうが良いと思うけど?」
「冗談やないわ! そんなことをして生き延びるくらいやったら、うちはここで死んだほうが数倍マシや!」
白井の言葉を跳ね除けるように、力強く神崎が言う。
考えるまでもないという強い想いが伝わってくる。
「あらあら、なかなか頭の固い人なのね。意外だわ。でも、小林さんのほうはどうかしらね? 私の誘いを断って、地上に残ったくらいだもの。地上に未練があるんじゃないかしらね? うふふふ」
「……私は、死にたくない」
「ほら、そうでしょう? なら、殺しなさい。そうすればあなただけは助けてあげるわ」
「……でも、私も美穂と一緒だよ。誰かを殺してまで生き残りたくなんてない」
弱々しくも、震える声で奈央は確かにそういった。
「綺麗事だけじゃ生き残れないっていうのに……。バカな子ね。じゃあ、あなたはどうかしら、長谷川君? この地下で数日暮らしたあなたなら私の気持ち、理解できるでしょう?」
「はん、理解できねーし理解したくもねーよ。俺が今、生きていられるのは海斗たちが助けてくれたからだっつーの。それを裏切ってまで助かりたいなんざ思わねえよ」
涼太は俺たちをかばうように前にずいと出てそう答えた。
「ぐ……、何よ。何なのよ。バカなんじゃないの。そんなの本心じゃないくせに……」
「いや……本心だよ。現に俺は、涼太に命を救われた。青木に撃たれそうになった時に涼太は身を挺して俺を守ってくれたんだ。そんなやつが、そんなやつらが友達を殺せるわけないじゃないか!」
こいつらは、俺のかけがえのない親友なのだから――!
「白井、以前お前はこう言ってたよな? 友達がいなくなっても、どうせすぐに忘れる。代わりを見つけるってさ。俺も最初はそうかなって思ってた。けど、違ったよ。涼太が死にかけたとき……俺は思ったんだ。涼太の代わりなんて他にいないってさ」
「な、何をバカなことを……。この世界に自分より大事なモノがあるっていうの? アハハ、揃いも揃ってバカばっかりだわ。ふふ、ふふふふ……そう。そんなに大事なら、守って見せなさいよ! どうせ、上っ面の言葉だけなんでしょ? そうなんでしょう!?」
白井が銃を構える。
しかし、誰一人動くことなく身構えている。
「な、なんで逃げないのよ。これは本物の銃よ? 脅しなんかじゃないわ。さあ、逃げ惑いなさいよ!」
「そんなに撃ちたいなら俺を撃てよ。それで気が済むならな」
「な、なんですって……ッ! いい度胸じゃない。そんなに死にたいなら、お望み通りにしてあげるわッ!」
薄暗い地下に一発の銃声が鳴り響く。




