38 元凶
「奈央、いつまで泣いてるんや」
「うぅ、ひっく……だって、私のせいでパニシエルさんが……」
「悲しいのはみんな一緒や。でもな、今は悲しんでる場合やない。今もなお知らないうちに実験体にされた人たちが死んだり殺されたりしてる。それなら、うちらにできることは何かわかるやろ?」
「美穂……。うん、そうだね」
奈央は、すっと立ち上がり涙をぬぐった。
「西崎先生、歩けますか? 俺たち、これから地上に戻ろうと思います」
「ああ、俺は大丈夫だ。こんな怪我くらいでいつまでも寝っころがってるわけにはいかん。死んでいったやつらに申し訳が立たねえからな」
西崎先生は、ふぅと溜息をつきながら立ち上がる。
額にはうっすらと汗がにじみでていた。
痛みを相当我慢しているのだろう。
表情もかなり険しくなってきている。
「なあに、心配すんな。地上へはお前たちだけで行け。俺にはまだやるべきことがある」
片手をあげて暗闇に消えていく西崎先生。
「なあ、カイちゃん。止めなくて良かったん? ザッキーのやろうとしてることって……」
「ああ、でも本人が決めたことだ。俺たちがとやかく言える立場じゃないよ」
それに、俺が何を言ってもあの人は聞く耳を持たないだろう。
そのくらい覚悟を決めたような顔をしていた――。
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「ダメだな。完全に封鎖されている。ちくしょう、俺たちをここに閉じ込めておく気なのか」
「涼太、諦めるのはまだ早いよ」
地上へと戻ることのできる鎖の扉。
その扉は固く閉ざされている。
人の力ではその扉を開けることはおそらく不可能だろう。
「そりゃ俺だって諦める気はねえけどよ。だけど海斗。何か策でもあるのか?」
「これを使おう」
俺は懐からあるものを取り出した。
「もしかしてそれ……」
「ああ、パニシエルが持っていた爆弾さ。頑丈なこの扉も、この爆弾さえあれば破壊できるかもしれない」
パニシエルさんが残してくれたモノ。
これで、ここから脱出することができる――。
そして、地下で起こった惨劇を二度と繰り返さないようにしなければならない。
「あらあら、そんな物騒なものを取り出してどうしたの?」
暗がりから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声の主がゆっくりと俺たちのほうへと向かって歩いてくる。
「……もちろん、この扉を破壊して地上に戻るんですよ」
「ふふふ、そうでしょうね」
「俺たちを止めに来たんですか?」
「私が止める? どうして?」
「しらばっくれても無駄ですよ、白井さん。全てあなたの仕組んだ罠だった……そうなんでしょう?」
目の前に立つ白井さんが笑い出す。
「アッハッハハハ! 何を根拠にそんなことを言うのかしら? 私はただ偶然通りかかった夏野君たちを見かけて追いかけてきただけよ?」
「偶然? いや、それは違うよ。この地下施設。最初の地鳴りのときからずっと停電している。明かりもなしに俺たちを偶然見つけ出すなんてことは不可能なのだから」
「……へぇ? いつから気付いていたの? 私があなたたちの監視をしていたことを……」
「ずっと不思議だった。この極秘の地下施設、高校生が入れるのは不自然だって。白井さん、確かあの時、この扉を開けてましたよね? なぜ、鍵を持っているのかがずっと気になっていたんだ」
俺が一度、この地下世界へ足を踏み入れた時もそうだ。
白井さんは、何度もこの地下と地上を行き来している。
誰にも言うなと念を押したあれは、冗談でもなんでもなく白井さんの本心だった。
そう考えれば全て納得がいく。
「それはつまり、あなたがこの地下施設の実験に関わっているということに他ならない。違いますか」
「なるほど、さすがは夏野君ね。やはりあの時、殺しておくべきだったかしら」
そう言って、不気味に笑う白井さん。
「あの小説をわざわざプリントにしてまで配っていたのもちゃんと理由があったんですね。実験体にするべき若者を、この地下世界へ何の疑いもなく誘導する。見事でしたよ。異世界というキーワードで見事に悩める若者を釣り、そして自由を謳い定住を促した。そうですよね」
「ええ、そうよ」
否定するわけでもなく、こくこくと頷きながら白井さんはニコニコしている。
まるで自分のしてきたことは間違っていないとでも言いたげだ。
「……白井さん、自分のやったことが分かっているのですか。あなたのせいで多くの人が実験体にされそして殺された。それなのに、どうして笑っていられるんですか! どうして……ッ!」
「ふふ、何もかもが自由な世界……この地下世界は私の理想とする。あの時に言った私の言葉にウソはないわ。そして、私はこの地下世界で永遠に生きていくつもりなの。そのための実験よ? 実験には犠牲はつきものだもの」
「そのためだったら、何だって利用すると言うのですか。あの青木さえも……ッ!」




