35 信じる心
「とにかく涼太の熱を下げないと、このままじゃ脳がやられちゃうよ」
「よっしゃ、うちに任せとき!」
「……ッ! 神崎、お前なにやってんだ!」
「熱を下げるんならとりあえず服を脱がすのが手っ取り早いやん?」
涼太の服を無理やりはぎ取ろうとする神崎。
「いやいや、そんなことしても焼け石に水っていうか……」
「そうか、水や、水をぶっかければええんやな!」
「ちょっと待てって。無理に熱下げたら逆に危険かもしれないし……」
「じゃあ、どうすんのさ。うちらがこんなことしてる間にも涼ちゃんが……ッ!」
時間がないことくらい分かっている。
でも焦ったって何も解決しないんだ。
こういう時こそ、冷静に行動しないと――。
時間がない今だからこそ、最善手をいち早く見つけないと取り返しのつかないことになる。
だけど――。
「ああもう、どうしたらいいんだッ! なぁ、奈央、お前も一緒に考えて……あれ?」
「うん? どうかしたんか?」
「奈央が、倒れてる…………おい、どうした奈央、しっかりしろッ!」
慌てて奈央のほうに駆け寄る。
すると――。
「まずい、奈央も物凄い熱だ。どうして……奈央はまだ治療してから1日も経ってないはずなのに……」
「副作用っていっても個人差があるんとちゃう? とにかく、うちらがなんとかしないと涼ちゃんだけやなく、同じように実験対象となった人がみんな死んでしまうで!」
奈央も涼太と同じようにひどい熱でうなされていた。
奈央の横で腹部を撃たれた西崎先生が苦しそうにしながら起き上がる。
「先生、無理しちゃダメですよ。動いたら傷口が広がってしまいます」
「うぐぐ、こんな時に寝てられっかよ。俺の大事な生徒たちが苦しんでるっていうのに……何もせずにじっとしているくらいなら死んだほうがマシだ」
「せ、先生……」
「とにかく、これが青木の実験の副作用だっつーなら、なにか特効薬みたいなもんがあるんじゃねぇか?」
特効薬……、そうか!
「そうだ、そうだよ。パニシエルさんたちが探していた薬……それで涼太たちを救うことができるかもしれないッ!」
メリアンダさんたちは薬がなければ三日で死んでしまうと言っていた。
もしかしたら、この原因不明の高熱のことをさしているのかもしれない。
だとすると、その薬さえ見つけることができれば――。
――涼太たちを救うことができるッ!
「そんなこと言うても、その薬がどこにあるかもわからんのやろ? 時間もないのに、この無駄に広い研究所を明かりもなしに探すのは無理があるで」
「それでも、探さなきゃ。このままじっとしてるわけにも行かない。俺が一人で探してくる。神崎はみんなの傍にいてやってくれ」
今度は俺が救う番だ。
なんとしても、なんとしてでも薬を見つけ出してやる。
「おい待て」
「……え?」
俺が研究所の奥へと入ろうとすると、呼び止められた。
西崎先生じゃない。
この声は――。
「僕も一緒に行こう、君一人じゃ、薬がどんなものかすら分からない、そうだろう?」
「パニシエルさん……」
青木に撃たれたはずのパニシエルが目の前に立っていた。
そうか、この人も実験体なら怪我くらいすぐに治ってしまうというわけか――。
この人なら、薬がどんなものかも知っている。
それならば話は早い。
俺が一人で行くよりも、涼太を助けられる可能性はぐっと広がるはずだ。
「待ってやカイちゃん。その男はうちらを殺そうとした爆弾犯なんやで?」
「うん、そうだね」
「そうだねって、そんな男と一緒にいったらカイちゃんが危険なんとちゃうの!?」
「ああ、そうかもしれない」
「そんならどうして……」
「例え、騙されようとも今は信じるしかないから……涼太を救うためにはこれしかない、だろ?」
「カ、カイちゃん……」
「それにほら、パニシエルさんは本当は悪い人じゃないんだよ、ね?」
パニシエルは無言で頷いた。
今なら分かる。
パニシエルさんの仲間を殺された恨みが。
本当にパニシエルさんが信用できない人物だったら、問答無用で爆弾を爆発させていたはず。
俺なんかに声をかける必要なんてないのだ。
今こうして話しかけてきたということは、きっと何か思うところがあったのだろう。
だから、俺は信じる。
パニシエルさんを、パニシエルさんの言葉を信じる。
「よし、行こう。薬を探しにッ!」
俺たち二人は、研究所の奥を目指す。




