34 後悔
「カイちゃん、しっかりしてや」
がっくりと肩を落とす俺に、神崎が優しく声をかけてきた。
いつでも、どんなときでも神崎は真っ直ぐに前を見据えている。
俺のせいで涼太は――。
それなのに、俺に文句の一つを言うことなく俺の心配をしてくれるなんて――。
ああ、そうか――。
俺が神崎を好きになった理由がなんとなく分かった。
自分にはない強さを神崎は持っている。
誰よりも強く、誰よりも立派で、俺なんかよりずっとずっと大人に見えた。
その神崎を見るのがツライ。
つらくてつらくてたまらない。
その笑った顔が何よりも苦しい。
だって、俺のせいで涼太は死んでしまったのだから――。
涼太は俺をかばって、銃に撃たれてしまった。
俺があんな無茶をしなければ――。
俺がもっと早くに青木を止めていれば――。
後悔してももう遅い。
俺は、大事なものを失った。
常に一緒にいてくれた親友を――。
「う、うぅ、俺は、俺は……バカだ。大バカものだ……。いつもアイツに助けられてばかりだった……。こんなことになるなら、もっと話しておけば良かった……。彼女ができておめでとうって素直に祝ってやればよかった……。また一緒に遊ぼうって言ってやれば良かった……。あの事件以来、ずっと気まずくて、なんて話していいのかわからなくて、ずっとずっともどかしかった……。それなのに、アイツは俺のことを親友だって……」
俺は泣いた。
ただひたすら泣いた。
今さら後悔しても遅いのに――。
涼太の笑った顔が、今も目に焼き付いて頭から離れない。
泣いてる場合じゃないのに――。
神崎のように、強く、前を向いて生きなきゃいけないのに――。
どうして、涙が止まらないんだよ。
「バカヤロウ、勝手に死んじまいやがって……。俺は、まだまだ涼太に言いたいことが山ほどあったっていうのにさ……」
静かに横になる涼太のほうを見つめながら、俺は震える声で呟いた。
「あ、あのな、カイちゃん……」
神崎が少し困った顔をして言った。
「う、うん? どうした神崎」
「……涼ちゃん、別に死んどらんよ?」
神崎から思いもよらない言葉が返ってくる。
「な、何を言ってんだよ……だって、涼太は銃で撃たれて……」
俺が涙声でそう言うと、涼太がむくりと起き上がりバツの悪そうな顔をした。
「い、いやぁ……すまん、海斗。なんか起き上がるタイミングを見失ったというかなんというか……」
「……ッ!? な、お前、生きてたのかよ! この、大バカやろうッ!!!」
「いて、いててて。バカはお前だ。こちとら銃で撃たれてんだぞ。怪我人なんだぞ!」
「何が怪我人だ、全然元気そうじゃねえか! 俺を騙しやがってコンチクショウッ!」
涼太は生きていた。
それが何よりも嬉しかった。
全てを忘れてしまいそうになるくらいに。
「でも不思議だな、俺、銃で撃たれたのに何で生きてるんだろう? それに傷跡もすっかり消えてるし……」
「傷跡が……消える……? ま、まさかッ!」
そうか、そういうことだったのか――。
涼太の目の色は赤かった。
だとすると、涼太も知らないうちに青木の実験対象にされていたことになる。
つまり、細胞分裂が促進されて傷がすぐに治る身体になっているということだ。
「は、はぁ……もう、一時はどうなることかと思ったぜ」
「いやー、海斗がそんなに俺のことを想ってくれてたなんて嬉しいなぁ。なんだっけ? 俺ともっと話がしたかったんだっけか?」
「うわー、もう言うな! 思い出すだけでも恥ずかしいッ!」
「ま、海斗が無事なら、俺は思い残すことは何もないけどな」
「何を縁起でもないこと言ってんだよ、銃で撃たれても不死身なんだから何も心配いらな――」
涼太が笑ったかと思ったら力無く倒れ込んだ。
「え……? な、なんだよ。また冗談ってやつか? 何度も同じ手に引っかかるかっつーの。おい、涼太……? なぁ、悪ふざけはもうやめろよ……、なぁ涼太!」
「た、大変や。なんかしらんけど涼ちゃんの身体がものっそい熱いで」
倒れる涼太を抱きかかえながら神崎が言う。
触ってみると確かにひどい熱だ。
目だけじゃなく体中が赤くなってきている。
「涼ちゃん、しっかりしいや」
「……う、うぅ、俺はもうダメだ……自分の身体のことは自分がよく分かる……身体が溶けるように熱い……すまねぇ、神崎。デートらしいこともしてやれなくて……せっかく好きだって言ってくれたのに、彼氏らしいことも何もできなくて……」
涼太の声が見る影もなく弱々しいものとなっていく。
「涼太、しっかりしろ! 今度こそ俺が絶対、お前を助けてやるからな!」
「助けるって、どないする気や?」
「分からないッ! でも、これが副作用っていうなら、対処法がきっと何かあるはず……」
涼太を死なせはしない。
俺の親友は、俺が死んでも守る――ッ!




