30 真実
「おやおや、揃いも揃ってどうしたんだい」
茶髪に白スーツの男が軽口をたたく。
以前、奈央の足を治療してくれた青木だ。
その青木がくるくるとイスを回転させながら不敵な笑みを浮かべている。
「ふざけるなッ! この子の目を見てみろ、お前の仕業だろうが!」
「ハハハ、どうした西崎。そう怒るなって。……ふむ、確かに目が赤くなっているねぇ。それがどうしたというんだい?」
「どうしたもこうしたもないだろう。お前、この子に何をしたッ!」
イスに座る青木の胸座を掴みながら西崎が言った。
「いやだなぁ。ちゃんと治療したじゃないっすかー。僕が彼女の怪我を治さなければ一生歩けないままだったんすよぉ? その恩人に向かってこの扱いは酷くないっすかねぇ?」
「き、貴様ァ……ッ!」
「西崎先生、落ち着いてください」
今にも青木を殴りかからんとする西崎先生をなだめる。
そして、俺は青木の目を見ながらこう続けた。
「青木さん、奈央の怪我を治してくれたことは感謝しています。……ですが、青木さんは治療と称して一体、彼女に何をしたんですか? あの足に埋め込んだ針に何が仕込まれていたのですか!?」
「人聞きが悪いことを言うねぇ。この僕が彼女に何かしたとでも……? おうおう、君までそんな敵意を向けてこられちゃあ敵わねえなぁ」
俺が青木に詰め寄ろうとすると、身をひるがえすかのようにイスから立ち上がる青木。
そして、スーツを整えながら壁際になるスイッチを押した。
「な、何のつもりだ!?」
「ふふ、君たちは血の気が多いようだからねぇ。念のためってやつだよ。僕の邪魔をされても困るからね」
俺たち3人は檻の中に捕らわれてしまう。
くそう、迂闊だった。
「本来ならば、実験体が制御不能に陥った時のために作った檻なんだけどねぇ。まさかこんなところで役に立つなんて思わなかったよ。ふふふ」
「実験体だと……!?」
「ハハハハ、君も気付いていたからこそここにたどり着いたんじゃないのかい? そうとも、ご察しの通り、僕が生物兵器を生み出した張本人さッ!」
「な、なんだとッ……! 青木ィ! てめえ、俺に嘘をついてやがったのか。ああん? 昔誓った約束はどうしたぁ!? 世界一の名医になるって、そう言ってたじゃねえか。どうしてお前があんな化物を……ッ!」
「西崎くーん、君は何か勘違いしているようだねぇ? 僕は約束を破った覚えはないよぉ? 現にありとあらゆる病気を治す技術を会得したんだからねぇ。そのことは君が一番よく知ってると思うけど違うかい?」
そう言いながら西崎がカプセルに入った何かを取り出した。
「これが僕の開発した新薬だ。細胞分裂の速度を数十倍にまで高めることによっていかなる怪我や病気も治すことができるのさ。といっても、まだまだ実験段階なんだけどね」
「実験段階……だと!? どんな副作用があるかもわからないものを使って治療をしていたというのかッ!?」
「ふふふ、人類の発展のためにはやむを得ない犠牲というやつだよぉ。それに、もし何もしなければ彼女は歩くことはできなくなっていた、違うかい? 付け加えて、僕は頼まれたから仕方なく彼女を治療したんだよぉ? その僕に向かって、その口の聞き方はないんじゃないかなぁ?」
「じゃあ、この目の色は副作用だっていうのか? じゃあ、生物兵器との関連性は……」
「アッハハハハ! 生物兵器ねぇ? 西崎くーん、君は案外お間抜けさんだったんだねぇ。赤い目をした化物と言われてる彼らだけど、れっきとした人間だよぉ。そこの彼女と一緒でね」
青木は檻の外から奈央のほうを指差す。
その異様な顔つきに奈央が身体をぶるりと震わせた。
「ふふふ、そう怖がるなって、実験データを取り終えるまでは殺したりしないよ。まぁ、副作用の影響で勝手に死んじゃうことも多々あるけどね。フハハハハハ!」
「……青木ッ!! ここから出しやがれ。お前、自分が何をしているのか分かっているのか! こんな倫理に反したことをしていたら、特殊訓練兵が黙っちゃおらんぞ!」
「アハハハ! 何も知らずに、罪もない人間を大量に殺した特殊訓練兵がそんなことを言える立場なのかなぁ?」
「なん……だと?」
「言っただろう? 赤い目をした化物、彼らはれっきとした人間だって。最近、中高生が行方不明になる事件が頻発していたのを知ってるだろう?」
「それがどうしたというんだ……」
「この秘密の地下施設に、どうやってただの高校生たちが紛れ込めたのか分かるかい?」
「ま、まさかッ……」
「そう、そのまさかだよぉー。僕が実験のために彼らをここに呼び込んだのさ! まぁ、大部分が途中で、自ら家の帰ってしまったけどねぇ。そのせいで、実験結果が正確に得られずに一部の実験体が暴走した……それが今回の生物兵器騒動の真相だよぉ」
「そ、そんな、あり得ない……ッ!」
「ふははは、現実から目を背けたい気持ちはよーくわかるよぉ。その彼らを生物兵器だ化物だといって焼き殺してきたのは他ならぬ特殊訓練兵だもんねぇ?」
「……ッ!」
「ま、実験施設から逃げ出した実験動物ちゃんたちがどこで死のうが僕には関係ないけどねぇ」
「……何故だ、何故そこまでして実験を推し進める必要があったのだッ! 青木、お前は昔から根は優しい良いやつだったじゃねえか!」
「……ふん、綺麗事だけじゃ救えない人がいるんだよ。誰かを救うためには僕は悪にだってなるさ」
「まさかお前……由美を救うために……」
西崎先生が何かを言いかけたその瞬間。
爆音と共に部屋が大きく揺れたのだった。




