3 調査開始
「この犬めっちゃ可愛いやんけー」
「うん、そうだね……」
放課後、涼太の家にやってきた。
玄関のわきにいた犬をわしゃわしゃと撫で繰り回す神崎。
それをびくびくしながら眺めている奈央。
そういえば、奈央は犬が苦手だったな。
小さい頃に噛みつかれたのが今でもトラウマになっているようだ。
「それで、なんでお前らも一緒にいるんだ?」
「だって、部活よりも面白そうやもん。うちも涼ちゃん失踪事件の調査を手伝ったるでー」
「別に調査をしにきたわけじゃないが?」
ただ単に、涼太が家にいるかどうかを確かめに来ただけだ。
異世界に召喚された、なんてことがあるわけないしな。
「ほな、そろそろ家に入ろうかー」
神崎がニコニコしながら家の玄関を開けた。
「ちょっと待てい!」
「なんや、どうしたんや?」
「人の家に、勝手に入ろうとすんな!」
「おー、せやな」
玄関の扉を閉め、チャイムを鳴らす神崎。
すると、勢いよくダッシュで外の塀の影へと隠れてしまう。
……?
何をやっているんだアイツは。
「はーい、どちらさまー?」
「え、えっと、あの、その……」
中から涼太の母と思しき中年の女性が出てきた。
いきなり姿を隠した神崎のせいで俺が応対するはめになる。
突然のことで、口をもごもごとさせてしまう俺。
「なんですか? 家に何か用ですか?」
明らかに不審者を見るような冷たい視線を浴びせられる。
その視線のせいで、思うように口が動かない。
「私たち涼太君の友達なんです。涼太君が昨日からお休みされているので、課題のプリントを持ってきました」
情けない俺を必死にフォローする奈央。
「へぇ、そうなんだ。ご苦労さん」
奈央からプリントを強引にむしりとると、扉を勢いよく閉められてしまう。
はて、課題のプリントなんてあっただろうか?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「なんやあの態度、感じわるー」
「物陰に隠れてたお前が言うな」
玄関先で神崎が扉に向かってあっかんべーをしている。
やれやれ、本当に神崎の行動は読めない。
「ほな、どうするんや? 涼ちゃんのこと結局、何もわからんかったやんかー」
「そ、そうだな」
せっかく涼太の家までやってきたのに、何の成果も得られていない。
しかし、あの母親から何かを聞き出すのは難しそうだ。
何だか忙しそうにしていたし。
「ご、ごめんね。私が課題のプリントを渡しちゃったから……。もっとお話を聞いてみれば良かったね」
「奈央のせいじゃないよ」
申し訳なさそうに何度も頭を下げてくる奈央。
仕方なく涼太の家から離れ、帰ろうとする俺たち。
すると――。
「お、あのおばはん、どっか行くみたいや。チャンスやでー」
「……? 何がどうチャンスなんだよ」
「良いから良いから、よっと」
涼太の母親が出かけて行ったのを遠巻きに見ていた神崎が急に涼太の家に向かって走り出す。
辺りに誰もいないことを確認すると、犬小屋を台にして、するすると2階によじ登っていく。
「お、おい、何やってんだ。ヤバイって」
「だいじょーぶやって。ちょっと、中に入って鍵を開けるさかいそこで待っといてやー」
全然大丈夫じゃないよ。
住居不法侵入だよ、下手したら捕まるよ?
しかし、俺の制止も虚しく、神崎は手馴れた手つきで窓から家へと入って行ってしまう。
「あーあ、美穂ったらまたあんなことやって……」
「また!? またってどういうことだよ。神崎って泥棒か何かなの?」
「ううん、私が寝てるといつもああやって窓から部屋に入ってくるのよ」
「何それ怖い」
神崎がアホの子なのは分かった。
だが、この状況はどうしたら良いんだ。
神崎を見捨てて逃げるか?
そうすれば、俺たちは共犯にならずに済む。
うん、それが良い。
よし、帰ろう。
「はい、お待たせー。さ、調査開始といきまひょかー」
「うわー、放せー。俺はまだ前科者になりたくねーよおお」
首根っこを掴まれ、無理やり涼太の家の中へと引きずりこまれてしまう。
「ここが涼ちゃんの部屋かー」
「特に変わった様子はないですね」
「いや、変わってるといえば変わってるぞ」
部屋が綺麗に片付いているのだ。
いつも散らかっている涼太の部屋がこんなに綺麗なのはおかしい。
やはり、何か事件に巻き込まれたのかもしれない――。
「む、こ、これはッ!」
神崎が何かを発見したらしい。
「どうした、神崎」
「ベッドの下にエロ本がありました、隊長!」
「やめたげてよお!」
何をやっとるんだコイツは。
自由すぎるぞ、全く。
「えー、涼太がこんな本を持ってるなんて……そんな、キャー」
「奈央まで何一緒になって見てんだよ、そこは止めろよ」
人の家に勝手に侵入して、プライバシーまで平気で侵害するなんて。
女って怖い。
「涼ちゃん失踪の痕跡は、見当たらないであります、隊長!」
「さっきから隊長って何なのよ。しかも関西弁じゃなくなってるし」
神崎のキャラがわからん。
変わってるやつだとは思っていたがここまでとは。
「とにかく、何もないならもう帰ろうぜ。おばさんが帰ってきたら間違いなく警察に通報され……」
「し、静かに!」
ガタン。
玄関の扉が開く音がする。
誰かが家の中に入ってきたようだ。
――ヤバイ。
冷や汗が一気に吹き出てくる。
さすがの神崎も、部屋の扉に耳を押し当て聞き耳を立てている。
「お、おい、どうすんだよ神崎」
小声で神崎に話しかける。
すると、神崎はニヤっと笑った。
あ、あかん。
絶対何か良からぬことを企んでいる顔だ。




