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29 赤い瞳

「ハハハ、何をバカなことを言っているんだ。奴らが生物兵器ではなく臓器提供用のクローンだって? こんな時に冗談はよしてくれよ」

「冗談なんかじゃありません! 本当なんです!」


 俺は意を決して、西崎先生に話をした。

 しかし、俺の言葉をまるで信じようとしてくれない。


「良いか、夏野。俺たちはな、国のために生物兵器と戦ってんだ。現に奴らは地上で多くの人間を殺し、この地下までやってきた。それをどう説明するっていうんだ? 俺たち人間に敵意がないとしたら、こんな戦争になったりはしないだろう」

「そ、それは違いますッ! 彼らには、争う理由があるんです! 彼らは、ある薬がないと3日で死んでしまうらしいんです、それで仕方なく……」

「ハッ、もういい。さては奴らの仲間に何か嘘を吹き込まれたな? もう俺の手伝いは良い、小林と一緒に地下の避難所にでも行ってろ。ここには二度と戻ってくるな、分かったな?」

「イヤです! 俺はここを一歩たりとも動きません。西崎先生、目を覚ましてください! 俺たちが本当に戦わなければならないものが何なのかを見極めてください。そうでなければ、この争いはずっと続きます。理不尽な形でクローンが生成され続ける限り、ずっとッ!」

「ふん……そんなに言うなら何か証拠があるんだろうな?」

「えっ?」

「ハハハ、そこまで啖呵を切っておきながら何もありませんなどと言うつもりか? バカバカしい! 悪いが、これ以上、君の戯言に付き合っている暇はない!」

「ま、待ってくださいッ! 西崎先生が協力してくれないなら、俺一人で動きますよ? それでも良いんですか!」

「……ふん、好きにするがいい」


 そう言って、西崎先生は部屋の奥へと歩を進める。

 その時だった。

 部屋に誰かが入ってくる。


 部屋にある非常灯の明かりにうっすらと照らされた瞳が真っ赤に輝いていた。


「なッ!? こ、こんな場所にまで奴らが来たって言うのか!」


 慌てて懐中電灯の銃を構える西崎先生。

 その西崎先生を羽交い絞めにして止める。


「おい、何をする夏野。こいつは人類の敵なんだぞ。こんなことをしていいと思っているのか!」

「やめてください、奴らは敵じゃないんです。話せばわかります。だから撃たないでください」


 これ以上、誰にも死んでほしくない。

 例え、クローンだろうと――。


 メリアンダは俺を助けてくれた。

 命がけで助けてくれた。


 ならば、俺も命がけで守ろう。

 彼女と彼女の仲間を――。

 

「……先生? 海斗? そんなに慌ててどうしたの?」


 聞こえてきたのは聞きなれた声。


「え……? な、お前……、どうして……」

「良かったわ、海斗。無事だったのね。奴らに捕まってしまったから、心配してたのよ」

「奈央? 奈央……だよな?」


 現れたのは、幼馴染の奈央だった。

 いや、奈央本人なのか分からない。


 なぜなら、彼女の目は――。


「奈央、どうしたんだ、お前……その目……」

「目? 目がどうかしたの?」


 気付いていない――?

 それとも、大谷さんの時のように、奴らが奈央に化けているのか……?


「夏野、手を放せ。こいつは、生物兵器の仲間だ! 小林の姿をしているが騙されるんじゃない!」

「せ、先生……? 何を言ってるの、私は――ッ!」


 何を信じればいい!?

 俺は、一体、何を信じれば――。


 カランカラン。

 奈央の手から何かが落ちた。

 奈央のケータイ電話だ。


「嘘……。わ、私、どうして……どうして目が赤いの!? どういうこと? わ、私は……」

「お、おい、奈央! しっかりしろッ!」


 取り乱す奈央。

 どうやら、ケータイのカメラ機能を使って自分の姿を確認したらしい。


 その姿を見て俺は確信する。

 本物の奈央だ、と。


 そして、俺は奈央のほうに駆け寄り抱きしめた。


「奈央、落ち着け! 大丈夫、大丈夫だから!」

「海斗……どうなってるの、私……人間じゃなかったの? 何がなんだか分からないよ!」

「大丈夫、落ち着いて何があったのかを話してくれ」

「な、何もないよ。私は、奴らに襲われた海斗を探して走り回っていただけで……」

「本当に? 本当に何もなかったのか?」

「本当だよ。奴らに捕まったわけでもないし、何かをされたわけでもない。それなのに、どうして私……」


 泣き叫ぶ奈央のほうに、西崎先生が歩み寄ってくる。


「先生、待ってくださいッ! こいつは、本物の奈央なんですっ!」

「……安心しろ。危害を加えたりはしないよ」


 そう言って、奈央の目をじっくりと眺めはじめた。


「……ふむ、奴らと同じく赤く染まりかけているがまだわずかに黒さが残っているな」

「どういうことでしょうか」

「恐らく何かの副作用によるものだろう……。心当たりがあるとすれば……」


 西崎先生が口を噤む。


「なんですか! 心当たりがあるならはっきりと言ってください!」

「小林は確か、青木の治療を受けていたよな……?」

「ええ、絶対治らないと思ってた足の怪我を治療してもらいましたけど……それが何か?」

「そうか……」


 何かを理解したかのように西崎先生が立ち上がる。


「ふっ、あらゆる怪我を治す青木の謎がようやく解けた。夏野。どうやらお前の話は本当のようだ」

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