28 困惑
俺は、取り残されてしまった。
真っ暗な第93食料庫に一人きりだ。
このまま、ここでじっとしていれば命は助かる。
メリアンダはそう言った。
だから、ここを動くわけにはいかない。
俺はまだ死にたくない。
平凡な高校生がクローンと政府の戦いに首を突っ込めばどうなるかなんて考えるまでもない。
そうだ。
メリアンダたちがどうなろうと俺には関係ない。
だから、ここで大人しく待っているのが正解だ。
そうに違いない。
だけど――。
彼女は、敵であるはずの俺の命を助けてくれた。
本当にこれで良いのか?
今、ここで動かなければ後悔することになるんじゃないか?
俺が何もしなければ、メリアンダは確実に死んでしまう。
――そんなのイヤだッ!
だからといって、俺にできることなんて何も――。
いや、待てよ?
俺にだって、できることがあるじゃないか。
メリアンダの言っていた薬を手に入れること――。
それができれば、メリアンダたちクローンを救うことができるかもしれない。
その薬がどこにあるのかもわからないし、どんな薬なのかもよくわからない。
けれども、ただの高校生なら誰にも警戒されることなく、その薬を手に入れることができるかもしれない――。
もちろん、入手できる確率は限りなくゼロに近い。
この食料庫から出れば、争いに巻き込まれ命を落とす危険性もある。
それでも、俺は――。
ここでじっとしているわけにはいかないッ!
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俺は、勢いよく食料庫から飛び出した。
「く……」
食料庫から出たものの、どこに行っていいかもわからない。
俺が悩んでいたせいで、メリアンダの姿はどこにもなかった。
何やってんだよ。
悩む必要なんてなかったじゃないか。
メリアンダは、身を挺して俺のことを守ってくれたんだぞ。
そんな彼女を見捨てて、俺だけ生き延びようとするなんて最低じゃないか。
俺は自分で自分を責めた。
弱い自分を、情けない自分を。
「ん……あの明かりは……」
遠くのほうで、赤く燃えたぎる炎が見える。
誰かがあそこにいるかもしれない――。
危険だと思いつつも、俺は明かりのほうへと足を進める。
一歩、また一歩。
徐々に視界が明るくなっていく。
それと同時に、身体から汗が噴き出してきた。
熱い、身体が焼け焦げそうだ。
メラメラと燃えたぎる炎の前に、俺は茫然と立ち尽くす。
近くには、特殊訓練兵と思しき人物が数人。
次々にその火の中へと何かを投げ込んでいくのが見える。
「ま、まさか……」
俺は急いで駆け寄る。
暗がりから突然現れたためか、すぐさま特殊訓練兵に取り押さえられてしまった。
「なんだ、ただの高校生か驚かしやがって」
「おい、どうする? これを見られちゃまずかったんじゃねえか?」
「なあに、心配いらんさ。ほらこいつの顔を見てみろ。状況をまるで理解してないって顔だ」
「ハハ、そうだな」
特殊訓練兵の男二人がそんなようなことを話している。
「しかし、今、手が離せないしな。どうするか」
「そうだな、とりあえず無線で隊長を呼んで……」
二人は俺をどうするかを話し合っているようだ。
いきなり飛び出したのはまずかったな。
これじゃあ薬を手に入れるどころじゃない。
いや、逆にこれはチャンスだ。
薬の在り処が分からない以上、闇雲に探すのは時間がかかりすぎる。
特殊訓練兵なら、薬の存在を何か知っているかもしれない。
よし、そうと決まったら――。
「あ、あの」
「どうした坊主」
「西崎先生を知りませんか」
「西崎だぁ……? てめぇ、西崎に何の用があるってんだ」
「もしかして、こいつ例の高校の生徒なんじゃないすか? 西崎のことを先生って呼んでますし」
「あー、そういうことか。それなら、アイツを呼んできたほうが話は早そうだな」
俺がビクビクしていると、特殊訓練兵のおっさんが俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら笑った。
「よっしゃ、俺が先生を呼んできてやっから安心しろや」
「へぇ、先輩。案外優しいところあるんすねえ」
「あんだと、てめえは俺をなんだと思ってやがるんだ」
「血も涙もない鬼かと」
一人が、もう一人をげんこつで殴るポーズをとる。
あくまでも殴る振りだ。
本当に殴ったりはしない。
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しばらくして、西崎先生が到着した。
俺のほうを見るなり、ほっとしたような安心したような顔をして笑った。
「よう、夏野。無事だったか。俺もお前の彼女も心配してたんだぜ?」
「彼女……? あ、奈央は、奈央は無事なんですか!?」
「おう、今は別の場所で眠っているぜ。しかし、悪かったな。お前を危険な目に合せたのは俺の責任だ。本当に申し訳ない」
西崎先生は両手をついて謝ってきた。
「あ、頭を上げてください。そんなことよりも、西崎先生に聞きたいことがあるんです」
俺はそう切り出したのだった。




