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27 逃亡

「ハァハァ、なぁ、こんなことして大丈夫なのか?」

「大丈夫なわけないじゃない! とりあえずあそこに隠れるわよ」


 今、俺はメリアンダと一緒に地下を逃げ回っていた。

 ひとまず第93食料庫に身を隠す。

 

「何やってんだよ、俺なんか助けたって何の得にもならないんだぞ。それに、俺たち人間は君たちの敵なんだろう?」

「うるさいわね! そんなこと言われなくてもわかってるわよ! でも仕方ないでしょ。こうでもしないとパニシエルは間違いなくあなたを殺していたわ!」


 彼女は、左腕を押さえながらそう言った。

 俺を助けるためにパニシエルから受けた傷だ。


「怪我、大丈夫なのか? 俺のせいで……本当にすまない」

「大丈夫よ、このくらいどうってことないわ」


 傷口に倉庫にあった布を巻いて止血する。

 すぐに布は血で染まり見るからに痛々しい。


「なんでだよ。なんでそこまでして俺を助けたんだよ……どうして……ッ!」

「身体が勝手に動いた……ただそれだけよ。本当、バカみたい。死ぬほど恨んでいた人間を助けちゃうなんて……私って、本当バカだわ……」


 生物兵器だと言うから血も涙もないのかと思えばそうではない。

 目が赤いだけで、普通の人間と何ら変わりがない。


 それなのに、西崎先生たちはこいつらのことを化物と呼び戦おうとしていた。

 一体、何故――?


「なあ、教えてくれよ。君たちは一体何者なんだ。なぜ人間たちと戦うんだよ!」

「私たちは好きで人間たちと争っているんじゃないわ。生きるために仕方なくそうしているだけ……」

「生きるために……? 人間が、俺たちが君たちの命を狙っているからか?」

「ふふ、本当に何も知らないみたいね」


 俺の質問に、呆れたように笑うメリアンダ。


「私たちは、人の手によって作られた生命体なのよ。身体の構造だって、人間たちとほとんど変わらないわ。それに、生物兵器だなんて上層部がでっちあげた真っ赤な嘘よ。だって私たち、戦う力なんてほとんどないもの」

「そう、なのか? 普通に人間たちよりも強い力を持ってる感じがしたけど」

「まあ、厳密に言えば、人間よりは基礎能力は高いかもしれないわね。健康でかつ再生能力の高い細胞を使っている。それが私たちよ。ほら、見てごらんなさい。さっきの怪我、もうほとんど治っているでしょう?」

「……ッ!」


 怪我をしていたはずの左腕がすっかり治っている。

 布を巻いていただけなのに――。


「どう、すごいでしょ? これが人間たちが開発した究極の生命体ってわけよ」

「……確かに、凄い。けど、どうしてそれで俺たちと争わなきゃいけないんだよ。わけわかんないよ」

「そうね。あなたたちみたいに何も知らない人間たちを巻き込んだのは悪いと思っているわ。でも、仕方がなかったの。私たちが生き延びるためには、こうするしかなかった……」

「どういうこと?」

「ふふふ、この優れた回復能力をどうやって利用すると思う?」

「さ、さあ?」

「答えは簡単よ。私たちの臓器を人間に直接移し替えるの」

「え?」

「臓器提供って言葉を聞いたことあるでしょう? 問題のある臓器を健康な臓器へと取り換える……」

「そ、それは知ってるけど……」

「それの延長線上に私たちが存在しているのよ。ありとあらゆる病気から身を守る術を人間たちは開発しようとした。それには再生能力に特化したクローンを作り上げるのが手っ取り早かったってわけよ。つまり私たちは、人間たちが長生きするために作られた実験動物。生まれてもすぐに殺され、引き裂かれる運命にある存在……」


 メリアンダは大粒の涙をこぼす。


「おかしな話でしょう? 私たちは生まれてもいつかは人間に殺されてしまう。そのためだけに飼われる存在だなんて……見た目は大差ないのに、どうして私たちが殺されなければならないのよ!」

「メリアンダ……」

「だから、私たちは研究所を抜け出した……自由を求めて逃げ出したの。でも結果は失敗に終わったわ。私たちの身体にはある特殊な装置が組み込まれていたの。私たちが人間無くしては生きられないように仕組まれていたのよ。残酷でしょう? 私たちは、ある薬がないと長くても3日しか生き残れないの。その薬を手に入れるために、私たちは戦っている。今も、そして、これからも……」

「それで、人間たちと争っているというわけか……」

「そうよ。でも私たちの存在を世間に公表したくない政府は、逃げ出した私たちを生物兵器と称し、殲滅することにしたみたいね。笑っちゃうでしょう。私たちの命なんて、なんとも思ってないのよ奴らは。壊れたらまた作り直せばいいと思ってるんでしょうね……」

「そ、そんなのおかしいよ! 間違ってる! 俺が君たちを助けるよ。そうだ、西崎先生に本当のことを話せば……」

「無理よ。その西崎ってのもきっと政府の人間よ。私たちを殺すために派遣された兵士の一人。あなたの言葉に耳を貸すはずがないわ」

「じゃ、じゃあどうすれば……」

「ふふ、もうどうにもならないわね。ここで待っていても明日になれば私は勝手に死んでしまう。けど、薬を手に入れる作戦も失敗した。もうお手上げだわ」


 そう言って、倉庫の入口に向かって歩き出すメリアンダ。


「……どうする気だ?」

「鬼ごっこは終わりにするわ。どうせ死ぬ運命なら足掻いても無意味だからね。あなたは、戦いが終わった頃を見計らってここから出れば命は助かるはずよ」

「……」

「さようなら、短い間だけど、お話できて楽しかったわ」


 そう言って、メリアンダはやさしく微笑んだのだった。

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