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22 救出

「奈央、しっかりしろ。今助けてやるからな」

「海斗……助けを呼んできてくれたのね……」


 食料庫の中で、衰弱している奈央が目に涙を浮かべてそう言った。


「当たり前だろ。俺が奈央を見捨てるわけないじゃないか」

「ありがとう……」


 正直、運が良かった。

 あのまま逆の方向に進んでいたら今頃は――。

 もし、地上からこの地下へと大勢の人が避難していなかったら――。


「安心しきっているところ悪いが、この瓦礫をどかす作業がまだだぞ。ほら、夏野。しっかりとこれを持っておけ」

「は、はい!」


 何やら不思議な装置を手に西崎先生が言う。

 俺に、その装置を持たせる。


「あの、何ですかこれ」

「細かい説明は後だ。ここをこうして、っと」


 リモコンのようなものをピッピッといじる。

 すると、俺が手に持っていた装置から伸びている管から泡状の物体が瓦礫を包み込む。

 それと同時に瓦礫がみるみる縮んでいく。


「す、すごい……どういう原理なんですか」

「さあな、俺が開発したわけじゃないから仕組みはさっぱりだ。なんでも特殊物体圧縮装置とかいう大層な名前が付けられているようだが……」

「圧縮という割に質量も変わってるんですが……質量保存則とか無視なんですか」

「そういうのは気にしないのがお約束だぜ? ハハハハ」


 理科の教師がそれで良いのだろうか。


「なんだか西崎先生、普段と性格が全然違いますね」

「おう、そうだろうそうだろう。教師らしくしとかないとまずいと思ってな」


 なんだか思ってたより随分と軽い。

 物静かで真面目で何を考えているのか掴みづらい。

 いつもはそんな感じの先生なのに。


 それが教師らしいと言われると疑問符だが、まあ本人がそう思ってるなら言及する必要はないだろう。


「さて、これで瓦礫も全てどかすことができたな。大丈夫か、小林」

「は、はい。少し足が痛みますが……」

「……」


 長時間、重たい瓦礫の下にあった足は見るも無残な形になっていた。

 これではもう歩くことすらできないかもしれない。


 重たい空気が流れる。

 そんな中、西崎先生は明るく笑いながらこういった。


「まあ、命が助かっただけでも良しとしようや」

「そうですね」


 奈央もつられて笑っている。

 この状況で、どうして――。


「私、このままこの瓦礫の下で死んじゃうと思ってた。だから今、とっても嬉しいの。海斗にもまた会えたのが……何よりも嬉しい」


 俺が不思議に思っていると、奈央が笑いながらそう答えてくれた。

 



---




「さて、とりあえずさっきの場所まで戻るぞ。俺の知り合いの医者を紹介してやろう」

「はい、わかりました」


 奈央を無事に救出した俺たちは、再び電気自動車に乗り込む。

 安心しきったのか奈央は、安らかな顔をして眠っている。


 時折、心配になって顔を近づけてみるとちゃんと寝息は聞こえていた。


「おう、車内でイチャつくのはやめてくれよな」

「ちょ、別にそういうんじゃないですから! 何言ってんですか」

「照れるな照れるな。良いよな、若いって。先生も若い頃は……」


 何を勘違いしたのか、そのまま帰るまで西崎先生の初恋の話を聞かされた。




---




「よし、着いたぞ。ちょっと医者を呼んでくるからここで待ってろ」

「はい」


 そう言って西崎先生は、俺と奈央を車に置いてどこかへ行ってしまった。

 静かに眠る奈央。

 その寝顔がなんだか可愛くて、愛おしく思えた。

 奈央の頭を優しく撫でる。


 奈央が怪我をしたのは俺のせいだ――。

 それなのに、何一つ文句をいうことなく全てを受け入れている。


 もし、できることならば代わってやりたい。

 そんなことを思っていたら奈央がふっと目を覚ます。

 

「あれ、私寝ちゃってたの?」

「うん、よだれを垂らしながら気持ちよさそうに眠ってたぜ」

「え!? よ、よだれ、やだぁ」

「嘘だよ、嘘。何を慌ててんだよ」


 慌てて口元を拭く奈央が本当にかわいく思えた。


「今さ、先生が医者を呼んできてくれるってさ」

「そうなんだ。なんだか先生、いつもと感じが違かったね」

「おう、俺も驚いたよ。教師らしくしようと寡黙を貫いているみたいだったけど、むしろあのくらい元気なほうが人気でそうだよな」

「そうだね、ふふ、フフフフ」

「どうしたんだよ、急に笑い出したりして」

「あー、美穂が言ってたこと思い出しちゃってね。ザッキーは話がわかるいい先生だって。もしかしたら、美穂は本当の西崎先生のことを知ってたのかもって」

「そういえば、そんなようなことも言ってたなあ。まあ神崎の場合――」


 あれ?

 神崎は今どこにいるんだろうか。

 西崎先生と一緒じゃなかったのかな。


 それにあの血の付いた懐中電灯の話も聞いてなかったし。


「へい、お待たせ。最強の名医を連れてきてやったぞ」

「ちぃーっす。お初ー、青木っす。どうぞよろしくっす。うひょう、本物の女子高生じゃねーか。よし、すぐに治療してやろう、そうしよう、ゲヘヘヘ」

「ちょ、何この人、なんか警察に通報したほうが良いレベルなんだけど」


 西崎先生が連れてきた人物。

 金髪でチャラチャラした白いスーツ姿のお兄さん。

 とても医者には思えない。

 おまけに、いやらしい顔で奈央のほうをじろじろと見てやがる。


「ひゃっはー、初対面なのにそんなに睨まないでくれよう。ちゃんと治療してやっからさ」

「安心しろ夏野。こいつ見かけはアレだが腕は確かなんだ」


 安心しろ、と言われても……。

 これのどこを見て安心すればいいんだよ。


「それじゃ、さっそく治療を開始するんで部外者は外してくれたまへ」


 ニヤニヤしながら青木が言う。

 仕方なく出て行こうとすると、奈央が俺の服の袖を無言でつかんできた。


 どうやら、こいつと二人きりになるのが不安らしい。


「あの、やっぱり俺も中に残ります」

「ひょぅ、あまり見ていて楽しいもんではないと思うけどなぁ? ま、俺っちが信用できねえってわけっすね。うんうん、その気持ち、スゲェよく分かるわー」


 わかるなら、その髪型と態度を改めてほしい。

 

 こうして、怪しげなチャラ医者による奈央の怪我の治療が始まったのだった。

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