21 異変
ひたすら歩いた。
歩いて歩いて歩き続けた。
暗闇を微かに照らす光だけを頼りに。
闇雲に進むよりも、何故だか安心できた。
あの光が俺を導いてくれている。
そんな気がした。
数時間歩いただろうか。
やがて、光は大きくなり目の前に広がる。
「こ、これは……」
光の正体。
それは――。
「何故、こんなにたくさんの人が……?」
辿り着いたその先に、数百人。
いや数千人以上の人であふれかえっていた。
その手には皆、似たような懐中電灯を持っていた。
まるで暗闇に浮かぶ蛍のように光が揺らめいている。
この地下にこれほどの人数が残っていたというのだろうか。
いや違う。
今、ここにいるのは小さい子からお年寄りまでいる。
あの時とは何かが違う。
雰囲気も物々しい。
何かに怯えるように泣き叫ぶ人。
パニック状態で、暴れまわる人。
一体、何が起きたというのだろうか。
しかし、これなら好都合だ。
協力して奈央を助けてもらおう。
そう思って、声をかける。
「あぁ? 女の子だぁ? ふざけんな、今はそれどころじゃねえだろうが!」
冷たくあしらわれる。
俺の言葉に耳を傾けてくれる人はいない。
みんな自分のことで精一杯という感じだ。
せっかくこんなにも大勢の人がいるっていうのに。
早くしないと奈央が――。
そんな時だった。
誰かに話しかけられた。
「あれ? 確か夏野君ですよね?」
同じクラスの中村さんだった。
大人しそうな女子で、お互いに話したことはほとんどなかった。
しかし、そんなことを気にしている余裕はない。
「大変なんだ、奈央が! 奈央が!」
「夏野君も地下に逃げてきたんですね」
「逃げて……?」
「ハァ……、私たちどうなってしまうんでしょうね。まさか地上があんなことになってしまうなんて……」
俺の言葉を遮るように中村さんが言う。
どういうことだ?
俺の知らないところで、一体何が起きたというんだ。
「それよりも大変なんだ、奈央が崩れた天井の下敷きになって……」
「そう、残念ですね。でもあれだけの被害です。悲しんでばかりはいられませんよ」
「……? 被害? 何を言っているんだ?」
「ふふ、ふふふ……もう世界はお終いですね。アハハ、アハハハ!」
「な、中村さん!?」
突然、壊れたように笑いだす中村さん。
その姿は明らかに異常だ。
俺が困った様子で眺めていると、横にいた子が俺に話しかけてきた。
隣のクラスの大谷さんだ。
中村さんとよく一緒にいる大人しそうな子だ。
「ごめんね、美智子はショックで少しおかしくなっちゃったの」
「大谷さん、大丈夫? 右手を怪我してるの?」
「ええ、ちょっとあの化物に捕まりそうになって……」
「化物?」
「彼らは一体、どこから現れたのかしら……。あら、夏野君も頭を怪我しているのね」
「え……あ、ああ」
必死だったから忘れていた。
頭を触ると激痛が走る。
「いてて」
触った手を見ると真っ赤に染まっていた。
「すぐ先生を呼んでくるね」
そう言って、人ごみのなかに消えて行った。
化物、とはなんだったのだろうか。
周りの人の話し声からも、化物だの宇宙人だのという意味不明な言葉が飛び交っている。
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「第138食料庫か、少し遠いがまあ大丈夫だろう」
「地下なのに自動車があるなんて思いませんでした。排気ガスとか大丈夫なんですかね」
「なあに、電気自動車ってやつだ。時代はエコだよ、エコ」
俺は今、西崎先生の運転する車に乗っている。
大谷さんが呼んできてくれたのが西崎先生だった。
すぐに俺の頭の怪我の応急処置をしてくれた。
そして、俺の話を聞いてすぐさま奈央のところへと駆けつけてくれることになったのだ。
「でも、どうしてこの車のことを? 先生は、この地下のこと何か知っているんですか?」
「知ってるも何も、俺はこの地下を守るために派遣された特殊訓練兵の一人なんだよ」
冗談かと思った。
しかし、西崎先生は淡々と話を続ける。
「いやぁ、でもまさか本当に奴らが現れてここに来ることになるなんてな。あの爺さんの予言も当たってたってわけだ」
「奴ら……? 予言……? 話がさっぱり見えないんですけど」
「まあ、細けえことは良いんだよ、着いたぞ。第138食料庫」
車から降り、何やら特殊な機械を手に食料庫に入っていく西崎先生。
普段の怠そうな授業をしている西崎先生と同一人物とは思えないほどテキパキと行動していた。
急かされるように、俺も西崎先生の後を追う。




