20 崩れゆく世界
「海斗、起きて……お願い……ぐすん」
「ううん……」
奈央の声で目を覚ます。
しかし、奈央の姿は見えない。
「あれ? ここはどこ? 真っ暗で何も見えない……」
「海斗、気が付いたのね。良かった。ここは第138食料庫だよ。急に天井が崩れてきて……」
「え……?」
奈央が俺の手をぎゅっと握ってくる。
その手は、小刻みに震えていた。
「どうしよう海斗。電気も消えちゃったし……」
「電気? そうか、だから今真っ暗なのか」
「う、うん。さっきから地響きが聞こえてくるし……。この地下世界で何か起こってるのかも……。私、怖い、怖いよ……」
声を震わせながら、奈央が呟く。
奈央の言うとおり、遠くのほうで何やらゴゴゴゴという音が断続的に続いている。
「う、いててて」
「大丈夫?」
俺が立ち上がろうとすると、頭に激痛が走る。
頭を強く打ったせいだろうか。
しかし、今はそれどころではない。
なんとか地上に帰らないと――。
「しかし、暗くて何も見えないな……よいっしょっと」
ポケットからケータイ電話を取り出す。
圏外ではあるが、電池はまだ残っている。
液晶の明かりでうっすらと部屋の中が見えるようになった。
「とにかく、ここでじっとしているわけにも行かないだろう。行くぞ、奈央」
俺がそういうと、奈央は座ったまま動こうとしない。
ケータイの明かりを照らしてみると、その理由がわかった。
「な、奈央、お前……」
「……だ、大丈夫。私のことなら心配しないで。ここで待ってる。だから、海斗は助けを呼んできて」
奈央は動かないんじゃない。
動けなかったのだ。
足を崩れた天井に挟まれ、身動きがとれないでいたのだ。
「何言ってんだよ。奈央を置いてはいけないよ」
「へ、平気だよ。ここには食べ物はいっぱいあるんだから……ちょっと海斗、何やってるの?」
「何って決まってんだろ、この瓦礫をどかして奈央を助けるんだ」
「む、無理だよ。私も何度もどかそうとしたけど、この重さじゃとても……」
奈央の消え入りそうな声。
それでも、精一杯強がって見せている。
「うおおおお」
ありったけの力を込める。
奈央を助けたい――。
そのことだけを考えていた。
いつしか頭の痛さなんて吹き飛んでいた。
それでも瓦礫はぴくりとも動かない。
「海斗、ありがとう。でももういいの、一人で逃げて。ね?」
「そんなことできるかよ!」
奈央を見捨てるなんてできるわけがないじゃないか。
どうして、どうして奈央がこんな目に――。
「私なら大丈夫よ。だから助けを呼びに行って。ね?」
「で、でも……」
「ここで二人で生き埋めになるよりはマシでしょう? それにほら、誰かが助けを呼びに行かないといけないわけだし……」
「そ、そんなこと言われても、電気もついてないし、帰り道だって……」
「海斗なら、大丈夫だよ。私、信じてるから」
「奈央……」
奈央の声は微かに震えている。
それが強がっているものだとひしひしと感じる。
奈央だってこんな暗闇の中で置き去りにされたくないはずだ。
だけど――。
「うん、分かった。俺、助けを呼びに行くよ。すぐに戻ってきてやる、だから安心して待ってろ」
「うん、待ってる」
俺は決意する。
ここから抜け出し、助けを呼んでくると。
そうしなければ、奈央を救えない。
今俺がすべきことは、奈央のそばにいることじゃない。
一刻も早く助けを呼んでくることだ。
目の前の問題から逃げてはいけない。
結果を恐れて、ただ待つだけでは状況は変わらない。
変わってくれないのだ。
俺がなんとかしなければ――。
---
「くそう、ここも真っ暗なのかよ」
食料庫から這い出てみるも、外は真っ暗。
ただでさえ、帰り道が分からないっていうのに。
どうしたら良いんだよ。
早く助けを呼びにいかなきゃいけないっていうのに。
気持ちばかりが焦る。
右か左か……。
どちらに進むかによって運命が大きく変わるだろう。
「ええい、こっちだ」
右に進もうと歩を進める。
「いや、待てよ?」
何か違和感を感じた俺は逆の方向へと進むことを決意した。
真っ暗な世界。
そこに微かな光を感じ取ったからだった。




