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2 涼太を探して八千歩

「おかしい……」


 涼太が今日も学校に来ないなんて。

 メールの返信もないなんて。


 きっと、何か重大な事件に巻き込まれたに違いない。

 もしかしたら、犯罪に巻き込まれて今もどこかに監禁されて俺の助けを待っているのかも!


「バカねえ。そんな小説みたいなことあるわけないじゃない」

「異世界に召喚されたってほうがよっぽどありえねーよ!」

「だって、本当のことよ? ほら、隣のクラスのなんとか君も異世界に召喚されたでしょ?」

「山田だ山田。確かに何ヶ月も無断欠席してるけど、異世界に召喚されたなんて誰も信じてないぞ?」

「えー、そんなことないよ? 女子たちの間では、次は誰の番かって戦々恐々としてるんだから」


 奈央に言われて、クラスの女子を見渡す。

 そして、俺は溜息をついた。


「あれのどこが戦々恐々なんだよ」


 窓際に女子が集まって、なにやらキャーキャーと騒いでいる。


「ねえねえ、次は誰の番かなー? あたしは、西崎がいいなー。あいつ何考えてるかわかんないし超きもくなーい?」

「あはっ、言えてるー。いつも貧乏ゆすりしてるし、マジ迷惑だよねー」


 恐れるどころかむしろ楽しんでるじゃねえか。

 いなくなってほしいやつの名前をひたすら言い合っている。


 他人事だからっていい気なもんだぜ。

 自分の大切な人がいなくなっても同じことが言えるのだろうか。




「最近の若いもんはどうしてこう陰口ばかり叩くのかねえ」

「あはは、海斗も若いのに何言ってんのよ」


 人の悪口は言うのも聞くのも腹立たしい。

 そういうのは胸の内にしまっておくに限る。


「いやー、あの子らは特別やさかい。うちなんかはほんまに怖くて怖くて夜も12時間くらいしか眠れんのやでー」

「そんだけ寝れば十分だと思うよ」


 いきなり話に入ってきた、関西弁の女。

 神崎美穂、奈央の親友だ。


 誰にでも馴れ馴れしくしゃべりかけてくる。

 正直、俺の苦手なタイプ。

 フェードアウトするように、奈央たちから距離を取る。


「おう、カイちゃん。どこ行くねん。ちょっとうちの話聞いてーな」


 ほらきた。

 俺のことをカイちゃんなどど馴れ馴れしく呼んできやがる。


「なんですか神崎さん。俺、今から職員室に行こうかと思ってるんですよ」

「おー、そうなんや。ちょうどうちも行こー思ってたとこやねん。一緒にいこかー」


 俺が避けようとしてるのを知ってか知らずか、いつもこうやって突っかかってくる。

 実にたちが悪い。


 しかし――。


「お、おう」


 断る勇気は俺にはない。

 言われるがまま応じるしかないのだ。





「そんで、カイちゃんは職員室に何しにいくん?」

「あ、ああ、涼太から担任の先生に連絡がないか聞こうかとね」

「あー、そやなー。涼ちゃんはカイちゃんの親友やってんな。カイちゃんつらいことあったらうちがなんでも聞いたるさかい。なんでも言ってやー」

「……お、おう」


 おせっかいな人だ。

 苦手なタイプではあるけど、どこか憎めない。

 それが神崎だ。


「うちは部活の顧問の先生とこ言ってくるさかい、カイちゃんまた後でなー」

「お、おう」


 神崎はニコっと微笑みながら、テニス部顧問の西崎先生のほうへと消えて行った。

 一人になった俺は、ようやく一息をついて担任の佐藤先生を呼ぶ。


 しかし、机に向かったまま必死にパソコンとにらめっこしていて俺に気付く気配がない。

 時折、震えるような手で電話の受話器を握ろうとしては、手を引っ込める。

 それをひたすら繰り返していた。




「あの、先生……」

「ひゃ、ひゃい!?」


 俺が話しかけると肩をびくんと跳ね上がらせて、椅子から転げ落ちる先生。

 相変わらずの挙動不審っぷり。

 よくこんなんで教師になれたな。


「な、なんですか夏野君。わ、私に急に話しかけないでっていつも言ってるじゃないですかぁ!」

「いや、ちゃんと3メートル手前から先生の名前を呼んでたんすけどね。気付いてもらえなくって」


 見た目はクールでメガネな先生らしい先生なのに。

 どうしてこうなった?


「そ、それで、私に何の用なんですかぁ? あ、さては私の数学の授業が分かりにくいっていう苦情ですね? うぅ、昨日5時間も予習したのにあんまりですぅ」

「いや、そうじゃなくてですね」

「あ、あ、愛の告白は困りますよ? こ、こ、これでも一応教師なんですからね! 夏野君はカッコイイし、勉強もできるから、先生も嫌いじゃないですけど、やっぱり生徒との恋愛は……」

「いや、だからそうじゃなくて……」


 緊張してるのか何なのか、俺が話しかけるといつもこうだ。

 パニック状態で、落ち着くまで俺が何を言ってもマシンガンのごとくしゃべり続けるのだ。


 しかも、その発言の多くが意味不明なものばかり。

 この前なんて、先生が飼っているネコの話を30分くらい聞かされたし。





「そろそろ、落ち着きましたか?」

「は、はい……。ごめんなさい。わ、私、人と話すのが苦手でして」


 苦手とはまた別な気がするけど。

 先生が落ち着いたところでようやく本題に入る。


「あの、涼太……、長谷川のことなんですけど」

「長谷川君ね。昨日からお休みしてますですね。せ、先生も気になって、自宅に何度も電話をしようとしたんですけどぉ……」

「誰も出ないんですか?」

「いえ、勇気がなくて電話かけられないんですぅううう」

「……はっ?」


 意味がわかりません。


「あ、わ、わ、私、電話がものすごく苦手で、面と向かってしゃべるのも苦手なのに、機械越しにしゃべるなんて、と、と、とてもじゃないけど、む、む、無理なんですぅうううう」


 なら、どうして先生になったんでしょうか。


「じゃあ、先生は涼太がなぜ休んでいるか知らないんですか」

「ひゃ、は、はい、そうです。知らないのですぅ。うぅぅう、ご、ごめんなさい、教師失格ですよねぇ。で、で、でも、訴えるのだけは勘弁してくださいぃい、わ、私、が、頑張りますから、今回だけは、今回だけは見逃してくださいぃいい」

「はぁ、まあ、分かりました。俺が今日、涼太の家に直接行ってみます」

「へ? ほ、本当なのですか? 良かった。これで電話しなくて済みますです。夏野君は、優しくて気が利く良い生徒なのですぅ」


 俺がどうしようと、教師として電話くらいはすべきなんじゃなかろうか。

 まあいいや、これ以上ここに居ても時間を無駄に浪費するだけだし。


 職員室をあとにし、俺は涼太の家へと向かうことにしたのだった。

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