19 地下探索
「ねぇ、海斗。本当に美穂がここにいるのかな」
学校の地下。
奈央が心配そうに話しかけてくる。
「だからお前はついてくるなって言っただろうが」
「私だって海斗の役に立ちたいもん。それに美穂は私の親友でもあるんだからね」
なぜ再びこの場所へやってきたのか。
答えは簡単だ。
6時間目の授業に現れなかった神崎。
心配になった俺は放課後、神崎の行方を探していると白井が教えてくれたのだ。
「神崎さんなら、学校の地下に向かうのを見かけたよ」
と。
確かに神崎は、以前に涼太を説得するときに一度地下へと降りている。
つまり地下へのルートも知っているのだ。
授業をサボってまでこの地下に何の用があるというのだろうか。
それに、西崎先生に話を聞きに行くと言っていたはず。
「くそう、考えてもわからねえ」
神崎はいつもそうだ。
思い立ったら即行動。
びっくりするほど積極的なやつなのだ。
だからこそその行動はさっぱり読めない。
「西崎先生の居場所が分かれば何か手がかりがあったかもしれないのに」
何故かは知らないが、西崎先生も行方をくらましていた。
嫌な予感がする。
西崎先生が神崎を地下に呼び出して――。
「ああもう、なんでこうも無駄に広いんだよここは!」
「海斗、少しは落ち着きなよ。焦ってちゃダメ。こういう時こそ冷静にならないと」
そんなことは言われなくてもわかってる。
わかってるけど――。
俺のせいだ。
俺のせいで神崎が。
学校の地下。数百人が同時に暮らすことができていた空間。
広いとは思っていたが、まさかここまでとは。
この謎の空間は一体、誰が何の目的で作ったというのだろうか。
白井は確か元からあった防空壕を利用したと言っていた。
「でも本当に広いね。学校よりも広いんじゃないかな」
「あ、ああ、そうだな」
しかし、この広さは異常だ。
それに電気が通っているのも気にかかる。
「あれ、また食料倉庫だ。第七食料庫……?」
「やたらと食料庫が多いな、なんでだろう?」
涼太がこの世界で一生暮らすなんて言ってたがあながち不可能ではないのかもしれない。
何百人、いや何千人が同時に暮らしても数年は持ちそうなくらいの大量の食料が保管されているのだ。
「あ、すごいこれ美味しい」
「ちょ、何を勝手に食べてんだよ。奈央、なんかお前神崎に似てきたんじゃないか?」
「だってこの缶詰美味しそうだったんだもん。海斗も食べてみなよ」
「……どれどれ、本当だ。非常食には勿体ないくらいの美味しさだな」
その味は、コンビニの弁当なんかよりもよほど美味しかった。
どれも消費期限は20年以上先だ。
真空化された特殊な缶詰に入っているため劣化はほとんどないらしい。
こんなものがはるか昔に作られていた……?
そんな技術が戦時中にあったとは到底思えないのだが。
「って、こんなところでのんびり食事してる場合じゃなかった。神崎を探さないと」
気が付いたら、缶詰を4つくらい食べていた。
急いで片付けて、立ち上がる。
そして、当てもなく地下を彷徨い続ける。
1時間、2時間――。
どのくらい経っただろうか。
数時間歩いても一向に行き止まりにならない。
ここ、本当に地下なのかよ。
「ねえ、海斗。そろそろ戻ったほうがいいんじゃない? これ以上進んだら帰れなくなっちゃうよ」
「何言ってんだよ。神崎を見つけるまでは帰れないだろうが」
「でも、美穂が本当にこの地下にいるかも分からないんだよ? 私たちだけで進むのは危険だよ。この地下の構造も知らないんだし」
奈央の言うとおりだ。
この地下施設、想像以上の広さだった。
戻ろうと後ろを振り返る。
すると――。
「……あれ? 俺たちどっから来たんだっけ?」
「え?」
前だけ見てひたすら進んできたから戻る道がわからない。
「ちょっと、冗談でしょう? 海斗がガンガン進んでいくからてっきり道を知ってるのかと思ってたのに」
「ごめん、神崎を助けることで頭がいっぱいで帰り道のことなんて考えてなかった」
「もう、バカ! だから帰ろうって何度も言ったのに!」
「いまさらそんなこと言われても……。大体、奈央が勝手についてきたんだろうが」
「何よ、私が悪いって言うの!?」
二人の叫び声だけが、無駄に広い地下空間に鳴り響く。
「……やめよう。こんなことで言い争っても仕方がない。とにかくこの辺で少し休もう。数時間歩きっぱなしだったから疲れちまったよ」
「そうね。迷ったときは動かずにじっとしてるほうが良いっていうし。ここで助けを待ちましょう」
助けを待つ――。
その言葉を聞いた俺は不安になる。
俺たち二人は、地下に行くことを誰にも行っていない。
こんなにも無駄に広い空間で、誰かが助けに来てくれることなんてあるだろうか。
「……大丈夫だよ。食べ物ならいっぱいあるんだし、ほらあそこにも食料庫があるよ?」
「あ、ああ」
奈央が傍らにある食料庫を指差して言った。
「第138食料庫……!? なんだよこれ。いくらなんでも食料庫多すぎだろ」
「う、うん。多いね。まるで、何百年もここで生活することを想定してるみたいに――」
中に入ってみると、第七食料庫と同じく缶詰がびっしりと備蓄されている。
しかし、不思議なことに、棚の一列だけごっそりと缶詰がなくなっていた。
「んー、ここだけ埃も被ってないな」
「つい最近、誰かがここに来たのかな?」
「どうかな。案外、俺たち以外の誰かがここに住んでいるのかも」
「……え?」
「ハハ、冗談だよ、冗談。そんなわけないよな」
そう言って笑ってみせる。
すると奈央がおびえた様子で何かを見つめている。
俺が振り返ろうとすると――。
ガツン。
頭に何やら衝撃が走る。
そしてそのまま気を失ったのだった。




