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18 西崎先生

「あの、西崎先生」

「……」

「あ、えっと、その……」

「……なんだ?」


 授業後、職員室に戻ろうとする西崎先生に話しかけてみた。

 俺の顔を見るなり面倒臭そうに溜息を一つ。


「あの日、教室で何をしていたんですか?」

「……何の話だ? 先生は今忙しいんだよ。すまないがまた今度にしてくれないか」


 西崎先生は、少し困った顔をしながら小声で呟くと逃げるように去ってしまった。

 怪しい。

 何かを隠していそうだ。


 よし、少し調べてみよう。



---



「へぇ、そんなことがあったんや」

「そうそう。俺はてっきり神崎が西崎に殺されちまったのかと思って心配してたんだぜ」


 まずは聞き込みからだ。

 テニス部の神崎なら、顧問の西崎先生について何か知っているかと思って話してみた。


 行方不明者が続出したあの日。

 血のような赤い液体をつけた懐中電灯を手に西崎先生は一体何をやっていたのだろう。


「わからんなあ。ただの見間違いなんとちゃう?」

「えー、そうかなあ? まあ焦ってたし俺の勘違いかもしれないけど……」


 どうやら神崎にも心当たりはないらしい。

 単なる思い過ごしだったのだろうか。


 そんなことを考えていると、神崎がぽつりと呟く。

 

「あー、そういえばな、その日からまだ帰ってきてない生徒がおるみたいやで」

「本当か!?」


 帰っていない生徒がいる。

 涼太のようにしばらく地下に住んでいた人も中にはいた。

 しかし、人が減るにつれ孤独に耐えかねてみんな元の場所へと帰って行った。


 だからこそ、まだ行方不明者がいるとなると――。


「もしかして、西崎先生がその生徒を……」

「ないない。ありえへんわ。ザッキーはああ見えて、結構面倒見の良い先生なんやで。女子生徒からは結構嫌われてるみたいやけどな」

「神崎も女子生徒のうちの一人じゃないか」

「うちは別や。ザッキーは、信頼できる人やで。うちが保障したる! そうや、なんならうちがザッキーに聞いてきたるわ」

「お、おい神崎!」


 呼び止めようとしたが、神崎は電光石火のごとく職員室に行ってしまった。


「大丈夫かなぁ」


 ちょっと心配だ。

 神崎のことを心配していると、背後から何者かが忍び寄ってくる。


 振り返ろうとすると目を覆い隠された。


「うわあああ」


 驚いた俺は、思わず廊下に倒れ込んでしまう。


「どうしたのそんなに驚いて」

「なんだよ、奈央か。驚かさないでくれよ」


 後ろには奈央が立っていた。

 俺の予想外のリアクションに戸惑ってる様子だ。


「確かに驚かそうとは思ったけど、ここまで反応があるなんてびっくりだよ。海斗ってば意外と小心者なんだね」

「ち、違うぞ。今のは、タイミングが悪かった。ただそれだけだ」


 なんとなく強がりを言う。

 マジでビビったのは事実なんだが。


「それより、どうしたんだよ。昼休みに怒ってなかったか?」

「あー、そのことを謝ろうと思ってたんだよ。でも海斗の後ろ姿見てたらつい」

「なにその好きな小学生にイタズラする男子みたいな心理」

「す、す、す、好きじゃないよ! な、何をバカなこと言ってんの!」


 急に取り乱してどうしたんだろうか。


「まあ、昼のことなら気にするな。俺のほうこそ不用意な発言で奈央を傷つけちまったみたいで、ごめん」

「え、ううん。違うよ海斗は悪くないの。私が勝手に……」


 急に元気なくしゅんとする奈央。


「……? なんだか変だぞ。何か言いたいことがあるなら……」

「べ、別に変じゃないもん、普通だもん。海斗こそ、さっきからそわそわしちゃっておかしいよ?」

「あー、神崎のことが気になってな」

「……そっか、そうだよね。海斗はやっぱり……ううん、なんでもない。あ、私もう帰るね」

「え? 帰るって、次の授業は?」

「あ! まだ授業あったんだっけ。うん、とりあえず教室に戻るね。それじゃ!」


 やっぱり変だ。

 奈央が変なのは今に始まったことじゃないけど。


 だけど――。



---




「あれ、神崎のやつまだ戻ってきてないのか」


 次の授業が始まっても、教室に神崎の姿はなかった。

 神崎はよく授業をサボってたから、さほど珍しいことではないのだが――。

 西崎先生に話を聞きに行くと言って職員室に行ったままとなれば話は別だ。


 ひょっとして――。


 俺がうっかりあんな話をしたせいで神崎が――?

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