17 ありふれた日常
「せっかく涼太も戻ってきたのに、随分と辛気臭い顔してるのね」
「なんだ奈央か」
「なんだとは何よ、失礼しちゃう」
学校の昼休み。
お弁当も食べずにぼけーっとしていたら奈央が話しかけてきた。
無言で隣の席に座って、お弁当を食べ始める奈央。
「ふふ、一人で寂しいんでしょう? 私が話し相手になってあげるよ」
「別に良いよ」
「遠慮しないで。ほらちゃんと食べなきゃ午後の授業に身が入らないぞー?」
「はぁ……」
「何よ、溜息なんてついて。あー、やっぱり海斗ってば美穂のことが好きだったんでしょ?」
「ほぇ!? な、何言ってんだよ。そ、そんなわけないだろっ!」
俺が神崎を?
ないない。
あり得ない。
あんな自由奔放で、言いたいことがあったらなんでも口にするようなやつ。
好きになるはずないじゃないか。
……。
「ふーん、まあいいけどね。でも、美穂は涼太と付き合うなんて意外だよねえ」
「そうだな。今だって、二人仲良く屋上でランチタイムさ」
神崎が告白する場に居合わせた俺からしても、涼太がOKを出すとは思ってなかった。
涼太は神崎を嫌ってたと思ってし。
どうしてだろう。
なんだか胸がモヤモヤする。
「恋だねぇ。美穂のことが気になって頭から離れないんでしょ?」
「だから違うって言ってんだろうが」
仮にそうだとしても、実らない恋なんて誰が得をするというのか。
神崎も涼太も傷つけるだけだし。
それならば、自分の胸の内にしまって忘れてしまうのが一番だ。
そうに決まってる。
俺は神崎のことは好きじゃない。
そういうことにしておけば全てが丸く収まるのだ。
「海斗は優しすぎるんだよ。もっと自分に正直になったほうが良いんじゃないかな」
「うっせえ。良いんだよ。みんな幸せのハッピーエンドじゃないか」
「でも海斗が全然幸せそうじゃないよ」
「俺は別に良いんだよ」
涼太を救い出すことができた。
それだけで、十分じゃないか。
他に何を望むってういんだ。
これで良かったんだ。
これで――。
「ほらやっぱり、諦めきれない顔してる」
「してねえって。大体、なんで俺が神崎なんかを……」
「んもう、素直じゃないんだから。でもそういうところが海斗の良いところでもあるんだけどね」
「な、なんだよそれ」
「ふふ。悲しいときは泣いたらいいんだよ。私の胸に飛び込んできなさい」
「ハハ、無い胸に飛び込んでも全然嬉しくねーよ」
「なんですってえええ! ちょっと、海斗!」
そんなことを言いながら、昼休みの時間は過ぎてゆく。
奈央のおかげで、少し元気になれた。
「ほらそこ、お昼休みにはしゃがないの」
「す、すんましぇん」
「ねえ、白井さんも一緒にお昼食べよう」
「ごめんー、今から隆文のところに行くの。また今度ね」
白井と山田も順調そうだ。
「あーあ、俺も彼女が欲しくなっちゃったなあ」
「えー? 海斗の目は節穴なの? 目の前にこんな美人がいるっていうのに」
「え、どこどこ? どこに美人がいるって?」
俺がそういうと、肩を思い切り小突いてきた。
「おいおい、そんな力強く叩くなって。ちょ、何を怒ってんだ?」
「別にー? 海斗がデリカシーが無さすぎるんじゃないかな」
「……?」
なんか奈央ってば、いつも変なところで怒ったりするんだよな。
ただの冗談を真に受けたのか?
幼馴染で俺とも付き合い長いはずなのに、おかしなやつだな全く。
「やっほー。なんや、ケンカでもしたん?」
「ううん、なんでもないよ」
昼休みが終わるころに、神崎と涼太が教室に戻ってきた。
神崎が奈央に不思議そうに問いかけている。
奈央は未だに機嫌が直ってないらしい。
その様子を遠くからぼんやりと眺めていると、涼太が俺の顔を覗き込んできた。
「おう、どうした海斗」
「な、なんでもねえよ」
「いやー、神崎の手作り弁当はめっちゃ美味かったぜ! あいつ意外と料理が上手なんだよ」
「へぇ、そいつは良かったな」
幸せそうな顔しやがって。
なんだか俺がものすごくみじめに思えてきた。
いっそのこと俺もこの学校の地下に逃げ込んじゃおうかな。
何もかも忘れて――。
「なんだか元気ないなあ。悩み事があるならなんでも俺に言えよ? 今度は俺が助ける番だ! なんちゃって」
はぁ。
言えるわけないだろう。
涼太の彼女が好きかもしれない、なんて。
「いや、俺は元気だぜ? ほら、わっしょいわっしょい」
「お、おう……。とりあえず授業始まってるから、落ち着け、な?」
「うわ、本当だ」
めっちゃ恥ずかしい。
西崎先生が、困った顔してこっちを見てるし。
あれ、そういえば……。
西崎先生はあの日、懐中電灯を片手に何をしていたのだろう?




