14 説得
「ムリムリ、ムリだからッ!」
「そんなつれないこと言わんといてー。ちょっとだけでええねん」
神崎の提案を思い切り拒む山田。
「もう僕は小説を書くのはやめたの! なんで今更、続きを書かないといけないのさ」
「そうすればみんな戻ってくるんやって。お願いや、タカちゃんだけが頼りなんや」
「た、タカちゃん!?」
「隆文だからタカちゃんや。ええやろ? ちょろちょろっと続きを書いたらええんやって」
半ば強引に、小説を書くように催促する神崎。
しかし、山田の表情は険しい。
どうやら、続きを書くことに抵抗があるようだ。
「ごめん、やっぱり僕には無理だよ。もう半年以上も放置しちゃってるし、今さら続きを書くことなんてできない。できやしないよ」
「そ、そんな……じゃあ、涼ちゃんを見捨てるっていうん? そんな殺生なぁ!」
「あ、あのさ、さっきから一体何を言ってるんだい? みんなが戻ってくるだとか、涼ちゃんを見捨てるとか……僕にはさっぱり……」
驚いたことに山田は、数多くの中高生が行方不明となっていることを知らなかった
この半年間、ニュースも見ずに部屋に引きこもっていたせいらしい。
俺たちは、事の顛末を山田に話すことにしたのだった。
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「へぇ、僕の小説に似た世界を現実世界に作り出す、かー。なんだか面白そうだね」
「あ、あかん。これあかんやつや」
「どうした神崎」
「タカちゃんってば、すっかり異世界に憧れてしもてるわ。そらそうやね、自分が書いた小説が現実化したら、一番うれしいんは作者のタカちゃんやもん」
俺たちの話に目を輝かせる山田。
最初に会ったときは、死んだ魚のような目をしていたのに――。
今では別人のようにイキイキとしている。
「それで、僕の小説を読んでいた人たちが集まってそこで暮らしているの?」
「あ、ああ、そうだよ」
小説を読んでいた人限定かどうかは定かではないけど。
「へー、楽しそうだなー、いいなー。僕もその世界で暮らしてみたいなー」
「お、おい、山田。俺たちがここに来たのはそういうことじゃなくて、涼太たちを現実世界に連れ戻すためなんだぞ? そこを履き違えないでくれよな」
良からぬ方向へ進みそうなので、予めそう断っておく。
そうでもしなければ、今にも家を飛び出していきそうな勢いだったのだ。
「でも、やっぱり僕には無理かな」
少し悩んだ後に、山田が呟いた。
「……え?」
「その地下施設も興味あるし、本当は小説の続きもずっと書きたかったんだ」
「じゃあ、どうして……」
「だからこそ、だよ。僕の小説を楽しみにしてくれた人がいてくれたこと、すごく感謝しているんだ。でも、僕はそんな人たちを裏切ってしまった。僕は弱い人間だ。必死に強がって、弱い自分を隠すように、見ないように、なるべく元気に明るく振る舞ってきた。けど、もう限界だったんだ。小説のことだけじゃない。不安に押しつぶされそうになった僕は、逃げることを選んでしまった。こうやって引きこもる生活をね……」
そういって、再び目が虚ろになる。
その寂しそうな、悲しそうな表情を見たら何も言えなくなった。
「何を分けわからんこと言うとんの。そんなんどうでもええわ。さっきから聞いてれば、周りのこと気にしすぎなんちゃう? 大事なのは、周りがどう思うかじゃない。自分が何をしたいかやで」
「自分が、何をしたいか……?」
「そうや、あんたはさっきから言い訳並べてるだけで結局、今も逃げ続けてるだけやろ? 変わることから逃げてるだけや。他人を言い訳にして、自分からも逃げてる。そないなこと続けてたら、ほんまに何もできなくなるで? ええか、最初にも言うたけど、あの小説、めっちゃおもろかったねん。涼ちゃんだけやない、うちのためにも続きを書いて欲しいんや」
どうしよう。
神崎がめっちゃ良い事を言ってる!
なのに――。
それなのに――。
「なんで、山田の部屋を荒らしながらそんな良い話ができるんだ」
「うわ、ちょ神崎さん、何してるの!?」
「アハハ、どういう環境で育ったら、ああいう小説が書けるのか気になってなー」
「うわあああ、やめてー、もうこれ以上、僕のプライバシーに土足で踏み込んでこないでえええ」
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「あーあ、追い出されてしもうた」
「お前のせいだろうが」
「そうだよ、せっかくあともう一歩のところで山田君を説得できそうだったのに」
また振り出しに戻ってしまった。
小説を書いた山田ならば、涼太たちの心を動かすことができると思ったのだが――。
「まあ、無理なもんは仕方がない。俺たちだけでなんとかしよう」
「せやな、その秘密基地とやらにうちも乗り込んだるわ。こうなったら力付くでも涼ちゃんたちを連れ戻したる!」
凄いな、神崎は。
失敗を悔いることなく、ガンガン前に進んでいく。
最初はただの変なやつだと思っていた。
けど、実際は違った。
他の誰よりも、友人たちを心配しているのだ。
だからこうして、休むことなく前に進もうと努力してる。
立ち止まろうとせずに、手当たり次第。
失敗を恐れることもなく、悠然と。
「やっぱり、凄いよ」
「うん? カイちゃんどうかしたん?」
「いや、神崎は行動力があるなって話さ」
「そんなことないて。うちはな、じっとしてるのが苦手なだけやもん」
そういって、少し照れたように笑う神崎の顔が印象的だった。




