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10 事件の真相

「これが……異世界?」


 階段を下りた先には、地下とは思えないほど広い空間が広がっている。

 気が生い茂り、川が流れ、太陽が燦々と輝いている。


 まるで、地上のようだ――。

 だが、明らかに地上のソレとは違っていた。


「これただの作り物じゃん。危うく騙されるところだったーッ!」

「フフ、さすが夏野君。よく気付いたね」

「何なんだよ! こんなの作って一体何をするつもりなんだよ」

「私はね、ただ協力してるだけよ? みんなの願いを聞き入れて理想の世界を作り上げようとしている。ただそれだけよ」


 白井が微笑むと、奥のほうからわらわらと人が出てきた。


「おう、海斗じゃねえか。お前もこの世界にやってきたのか!」

「えっ……? りょ、涼太……?」


 その中に涼太もいた。

 いつも通り、気さくに俺に話しかけてきた。


「いやぁ、この世界は最高だな! 異世界に召喚されて良かったよ!」

「な、何言ってんだよ涼太。ここは異世界なんかじゃないだろ? 全部、作り物なんだぞ!」

「おいおい、海斗。つまんねえこと言うなよ。作り物とかそんなのいいんだよ、どうでも。この世界はな、試験も宿題もないんだ。つまりずっと遊んでいるだけで良いってわけだ、最高だと思わないか? 学校の成績で悩む心配もない。口うるさい親もいない。うざったい先生も、醜くて汚い大人は誰一人いない。若者だけの理想の世界なんだ」

「こ、これが……連続失踪事件の真相だっていうのか? おい、目を覚ませよ、涼太! こんなのただ逃げてるだけじゃないか! みんなして、現実逃避しているだけだ。早く帰ろう、元の世界へ!」


 俺がそういうと、差し出した手を跳ね除けられる。


「なんだよ。てっきり、海斗もこの世界に憧れてやってきたのかと思ったのにそうじゃなかったんだな。海斗は昔っからそうだ。真面目に授業を受けて、真面目に勉強して、親の言うことを全部聞いて。優等生ぶってんじゃねえよ! お前だって、あんな世界で暮らしていて楽しかったわけじゃないだろう!? 何が、元の世界へ帰ろうだよ。ふざけんな! 俺はな、決めたんだよ。この世界で一生暮らしていくってな!」

「ふざけてんのはお前だろ! 誰にも叱られずに、好きなことだけやっていける世界だって!? 確かにそれは楽しいかもしれない。でも、こんなところで5年も10年も暮らせるわけないだろ? 食べ物とかどうすんだよ。ずっと、こんなところで、遊んで暮らせるわけがないだろ!」

「あーあー、うるせえなあ。良いんだよ、未来のことなんて。今が楽しければそれで良いだろう? ふん、もう海斗と話をすることもないな。そんなに元の世界へ帰りたいなら、一人で勝手に帰っちまえよ!」

「……!?」


 涼太はそう言って、どこかへ行ってしまった。


「あらあら、夏野君が長谷川君とケンカするなんて珍しいね」

「白井。一体、何がどうなっているんだよ。誰が、何の目的でこんなことを――」

「別に、目的なんて何もないわよ。ただ、毎日を面白おかしく過ごしたい。そう思った人たちが集って自然と寄り添うようになっただけの話」


 白井は、手に持っていたプリントを見せてくれた。


「こ、これは――」

「どう、面白いでしょう? これね、山田君が書いた小説なのよ」

「山田って、隣のクラスの?」

「ええ、そうよ。その小説をもとに、みんながこの世界を創り上げたのよ。といっても、この学校に元々あった地下室を利用しただけなんだけどね。なんでも戦時中に防空壕として使われていた場所を再利用したんですって」


 どうやら、ここは学校の地下にある施設のようだ。

 うちの学校の生徒がやたら多いのはそういう理由か。


「じゃ、じゃあ、ここに居る人たちは――」

「そう、みんな自分の意思でここにきているのよ。誰も彼もが現実世界に希望を見いだせなくなった人たちなの。決して無理やり連れてこられたわけではないわ」

「……」

「夏野君にも、この世界の素晴らしさを知ってもらいたかったんだけど……お気に召さなかったかしら?」

「気に入るも何も、こんなの……。こんなの間違ってるよ! 白井は、このことを最初から知ってたのか? なんで、何も言ってくれなかったんだよ。俺だけじゃない、残された人たちはみんな、いなくなった人たちのことを心の底から心配してたんだぞ。それなのに……」

「心配? そんなの上辺だけでしょう? 誰かがいなくなったところで、悲しいのは最初だけ。そのうち、いなくなった人のことなんて忘れてしまう。代わりを見つけて補完するだけの話よ。夏野君だってそうでしょう? 長谷川君の代わりに小林さんや神崎さんとお話してたもんね。世の中なんて、そんなもんなのよ。誰かがいなくなったところで結局、何も変わらないの。だから私たちは、この世界で……『異世界』で生きることを決意したのよ」


 俺は、涼太のことをどう思っていたのだろうか。

 都合の良い友人としか見ていなかった?


「ねえ、夏野君。最後にもう一度聞くわ。この世界で一緒に暮らす気はない?」

「あるわけないだろ、白井も冷静になって考えてみろよ。こんなの無理に決まって……」

「そう……残念だけど、ここでお別れのようね」

「え……?」


 白井は、懐からナイフを取り出しそう言った。


「この世界のことは、誰にも知られてはならない……、そうしないと、理想の世界が壊されてしまうから、だから――。さようなら、夏野君」


 そして、そのまま俺に向かって切りかかってきたのだった。

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