1 隣のクラスの山田が異世界に召喚された
「隣のクラスの山田が異世界に召喚されたんだってさ」
「へー、そっかー。山田も大変だなー」
それはいつものありきたりな日常会話だった。
涼太は、小説が大好きでよくこの手の話をしてくるのだ。
他愛もない嘘。
その時は、そう思っていた。
「今回は、本当だってば。もう三日も行方不明なんだってよ」
「へー。でもなんでそれで異世界に召喚されたことになるんだよ。何らかの事件に巻き込まれただけかもしれないだろ?」
「一緒に居た山田の彼女が見たんだって」
「見たって、何を?」
「突然、魔法陣がパーっと現れて山田が連れ去られるところをさ!」
「あー、そうなんだ」
涼太の嘘に付き合うのも面倒くさい。
今日は朝から雨が降ってて気分も最悪だ。
おまけに、バカ犬のせいで靴下もびしょ濡れだし。
「素気ないなあ。心配じゃないのかよ」
「うん。だって山田と話したことすらないし」
「うっそ。マジで? あいつ、誰にでも分け隔てなく話しかけてくんじゃん? なんで話したことないんだよ」
「知るかよ。話しかけたくなかったんじゃないか?」
「あー、分かるわー。なんか海斗に話しかけるの躊躇っちゃうよな」
「ひでー。傷ついたわー。俺の心に大ダメージだわー」
そんなアホなことを言いつつ、涼太の戯言を受け流す。
「そんなことよりさ、今日の宿題やった?」
「やっべ、宿題なんてあったっけ? すっかり忘れてたー。ちょい見せてくれよ」
「ったく、しょうがねえなあ。今回だけだぞ」
「へへ、そういっていつも見せてくれる海斗は優しいなー。惚れるわー」
「棒読みで言われても全然嬉しくねえよ。いや、本気で言われても引くだけだけどな」
こうして、いつもの何の変哲もない日常が過ぎ去っていく。
特に何かがあるわけでもなく、退屈な日常。
くるくると、毎日無限ループするかのように同じ日常を繰り返す。
しかし、そんな当たり前の日常がある日突然変化を遂げた。
それは山田がいなくなってから数ヶ月後のことだった。
学校に着くと、いつもと違う景色。
朝から机にうつ伏せになって眠っている涼太の姿がない。
遅刻だろうか。
10分、20分――。
授業が始まっても涼太が学校に来ることは無かった。
あいつが休むなんて珍しいな。
風邪かな?
メールを送ってみる。
10分、20分――。
返事がない。
「なあ、涼太どうしたか知らない?」
「おー、海斗じゃん。珍しいねー、海斗のほうから話しかけてくれるなんて」
昼休みに、仕方なく幼馴染の奈央に話しかけた。
最近はあまり話をしなくなっていたのだが、他に話しかけられる人がいなかった。
「質問に答えてくれよ。涼太知らない?」
「あれー、海斗。知らないの? 涼太は異世界に召喚されたんだってさ」
何かのイタズラだろう。
そう思った。
涼太ならやりかねない、と。
しかし、翌日も涼太が学校に来ることはなかった。




