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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ファイナルランデヴーを目指して〜ヒーロー時代の終わり〜

作者: 吉村吉久
掲載日:2026/01/10


 統一暦114年。

 

 ヒーロー勢力の一つヴェガ・アンド・アルタイル(V&A)のファルコンズが、怪人勢力の本拠地でインド管区に建設された軍事基地リグナムヴェータを陥落させ、ここにヒーロー勢力による世界の救済がなされた。


 そして、怪人側のボスであるミヒャエル・ヘルモニゲルツが殺害され、彼が運営していた生命科学研究所が徹底的にガサ入れされ、月面誘導破壊兵器USO-800(ユーエスオー・エイトハンドレッド)は破壊され、その結果として


 「ヒーローの元祖は怪人と同じであり、そこからヒーローと怪人に分化した」という結論がなされ、アメリカ管区・ニューニューヨークに本部を置く世界平和維持連合は戦争の終わりを宣言した。


――それから3年の月日が流れた。


 ファルコンズの大半の出身者を輩出した極東管区の日本地区では、元イーグルこと鷲沢わしざわ秀人ひでとと、元オスプレイこと河井かわい美砂みさごの結婚式が開催されていた。


 その二次会にて。


「どうしても、"ファイナルランデヴー"を決めたいんだ」


 参加者の元ピジョンである鳩山はとやましょうが元カイト、橋本はしもと開斗かいとに相談をしていた。


「鳩山、もうヒーローの時代が終わったのは分かるよな? 鷲沢は多分、今晩にでも美砂に"ファイナルランデヴー"するだろうよ」


 その意味を鼻で笑って察しつつも、あくまで真面目に鳩山は話す。


「開斗、俺はヒーローが未だに一度も決めたことがないというファイナルランデヴーにチャレンジしてみたいんだよ……どれだけ修練を積んだヒーローでも、今まで一度も成功させたことがない……」


「マジか……あれはな、使ったら「死ぬ」と言われてるんだぞ。そもそも条件が厳し過ぎる……」


「それでもやる……俺はいつも脳内でイメージトレーニングしてるんだ。憎き相手にファイナルランデヴーを決めて、撃破するその瞬間をな……!」


 説明しよう。


 ファイナルランデヴーとは、飛行系のレジェンド級奥義であり、同じ飛行系の相手の全速力の空中移動で正面衝突し、物理的に二乗じじょうされた衝突エネルギーを利用して爆発を起こし、突撃、打撃などの二次的エネルギーの追加効果で自分への反動を顧みず相手を粉砕する技である。(なお、これを使用して悪を粉砕した正義のヒーローは、多数のカメラワークとともに複数のリプレイをもって賞賛されるという)


「鳩山、ところでもうオレたちはヒーローを剥奪されて、ヒーロースーツも使えない。分かるな?」


 鳩山ピジョンは橋本になおも反発する。


「まだ分からないだろ? この平和がいつまで続くか。すっかり太ってカカポみてえになったお前と違って、俺はまだまだ鍛え続けている……いつかこの世界をまた救うときのためにな……!」


 橋本はあまりの元ピジョンの情熱にため息をついた。


 表彰されたファルコンズはリーダーのファルコンを筆頭にイーグル、オスプレイ、バザード、カイトの五人で、ピジョンこと鳩山はそもそもファルコンズの一員というだけで、表彰さえされていない。


 残された報酬も橋本と鳩山では大違いだ。


 鳩山は今ではコンビニでアルバイトをして家計をしのいでいる。


――


 しかし、さらに3年後、統一暦120年――


 日本地区、新東京市・西東京付近、新田無しんたなしタワーの上空付近にて。

 無人航空機1機が接近中であった。


<高度18000mでこちらに直行! 偵察型コカトリス、護衛機などはなし>


<1機のみ、識別信号を確認してください。4Dデータによる照合を行います>


<テロリストの可能性も……コカトリス、急速に落下!>


<しまった……! 管制室、射撃の許可をくれ!>


<承知しました! 承認申請を送付します!>


<ダメだ、間に合わない、衝突す――>


 ゴォォォオオオン!!!


 地上1000mの位置にアンテナを持つ地上700mの超高層ビル、新田無タワーは、圧縮窒素爆弾を積んだコカトリスの直撃を受けて崩落、さらに地下の簡易水素力発電所に爆発のクラスターが引火し、新東京市では大災害が発生して1万人以上が死亡、さらに約1000万人へのインフラ崩壊が発生した。


 翌日未明、犯行声明が宇宙テロリスト集団「フェニックスシャドウ」によって全世界にアップデートされた。


『我々フェニックスシャドウは地球をハックした。我々はUSO-800を発展させたUSA-GI3(合衆国グレートイグニッション装置3型)により月面からの通信システムで地球のどこにでも大型ドローンを飛行させ空襲できる。要求としては3つだ。1つ、建設中のネオ東京バベルツリーを解体すること。2つ、新府中刑務所の怪人棟にいる全員を解放すること。3つ、極東管区の全てのネットストームアビリティを解除すること。そして、それらが確認され次第、月へのフェニックスシャドウとその従属都市の移住を黙認し、地球側との対等な関係を結ぶこと』


 こうして4つの要求が送られてきた。


――


「ククク……」


 翼の生えた黒スーツの男は破壊された新田無タワーの廃墟の上で、薄ら笑いを浮かべていた。

 

 周囲からは黒煙が立ち昇り、ときおり死臭すら漂ってくる。


 救助隊は未だタワーから離れた位置で活動しており、ここに人気は無い。

 


 ――はずだった。


「……楽しそうだな」


 乾いた男の声に振り返り、その姿を確認すると、翼の男は全く動ぜずに返答する。


「フッ……そりゃ楽しいさ、作戦にまんまとかかった連合の奴らの顔を見てみろよ。ところで君さ、さっきから丸見えなんだよ。この四天王の僕が見逃してやろうと思ったんだけど、そうもいかないんだよね」


「四天王だか何だか知らんが、見逃すかどうかを決めるのは俺だぞ。そして、無辜の犠牲者を出したお前たちを、ヒーローの俺は決して許さない!」


 男は手でかぶりを振った。


「あぁそう。君が来るのは何となく分かっていた、ピジョン。だが、このダークファルコンの前では赤子も同然だ……他にステルシースネイク、サンセットリザード、ブラックキャットもいるけどね。彼らは今頃、海の向こう側だよ。ヘルモニゲルツ博士の遺産……鳥獣GIGA構想による超越生体兵器UMA-No33(ユーエムエー・ナンバーダブルスリー)が起動すれば、世界は僕たちのものになる……これを話すのは外部では君が最初だけど、ごめんね……ヒーローなんて古い遺産に拘る君には、ここで消えてもらうから」


 ダークファルコンが手をかざし、ホロフィルムを鳩山――ピジョンに見せた。

 

「なっ……?!!」


 思わずホロフィルムを出したファルコン本人が素っ頓狂な声を上げる。


 そこに映るのは、炎を上げて燃える六角形の建物。 

 北米管区アメリカ地区の森の奥にある研究施設「ヘキサゴン」が爆発炎上していた。

 

 そればかりか、さらに複数の飛翔体がそこに突入し、爆発の炎は数千mにまで昇るかと思われる。

 恐らくはUMA-No33もこれだけの爆発で木っ端微塵に破壊されただろう。

 無人機コカトリス・グリフォン・ワイバーンの編隊が一斉に自爆突入をしかけたのだった。


「どうやらハッカーチーム"虚弱戦隊サイジャック”の奴らがやってくれたようだ。鳥獣GIGAとやらもオシマイだな。お前らが舐めてるほど、人間の力って弱くねえんだよ。さあ、裁きを受けろ」


 ちなみに、今回はドローンのハッキングと操作をハイジャックが主に担当し、リーダーのサイジャックやヒンジャック、アマノジャック、バスジャックといった面々はまだ熟睡中である。


「……おのれ、弱虫で落ちこぼれのピジョンが僕と勝負するだと……?!」


 ファルコンは身体を浮かせると、わずかに地平線が朝日で煌めいた。


 ピジョンが東の方角を見て言う。


「太陽から地球に光が届くまで8分19秒、それまでに決着をつけようか……!!」


「おぉぉぉ!!!」


 ピジョンがつい昨日知った知識を号令に、両者は地面を蹴った。


「何故、この場所が解った?」


「帰巣本能、って言葉を知ってるか? 数万kmの距離だろうと、ハトは……」


「答えになって無いな、ハトめ。お前たちは「高さ」ばかり見て、「底辺」を見ようとしないんだ。新しい同僚なかまたちから聞いて、初めてそれに気付いた」


「え?」


「高さだけじゃ何も求められない。底辺を見ることで初めて、物事の本質が見えてくるものだ! 食らえ、ダーク・エネミー! なにッ?!」


 ピジョンはファルコンの分身を使った一撃を軽くかわし、跳躍した。


(まだだ、まだタイミングではない……)


 羽根が宙に舞う。


「ふんっ!! カラスやタカの多くは確かに強い。だが、機動力ではハトに及ばない……体格を小さくすることで、小回りを利かせている。だからカラスは滅多にハトを襲わない」


 素早く追いついたファルコンは、ピジョンに狙いを定め、一撃を叩きこむ。


「おのれ、ちょこまかと……ライオットブラスト!! トォリャァァァ!!」


(まだ「速さ」が足りない……!)


「ピジョン・チェスト! おぉぉぉ!!」


 ハト胸のように胸部を膨らませ、ファルコンの連撃を甘んじて受ける。ダメージはだいぶ軽減された。


「何故反撃しない? まぁ良い……トドメだ! しょぁぁぁ!!!」


「ぐっ……」


 ピジョンはファルコンに蹴られ、思い切り高度を下げていった。


 そして一瞬のホバリングを合図に、


「ホーミング……ブラックソニックダイブッ!!」


 ファルコンは黒い残影を残しながら超音速で急降下攻撃をかます。


 それを確認したピジョン。


「よし、ジェットストリームスゥイングからの……」


「なにっ! こちらに浮き上がっただと……?!」


 刹那、ピジョンのボディが黄金色に光る。


「ファイナルランデヴー!!」


 両者の圧縮されたエネルギーがぶつかり合い、力学エネルギーが二乗され、とてつもない爆発を産む。


「ぐ……アァァ!!!!!」「うぉぉぉォォォ!!!」


 ゴゴゴ……オォォォ……ン!!!


 ここに全ヒーローが未だに成功させたことにないファイナルランデヴーが成功し、大きな爆発が起きた後は、東からの朝日が僅かに光っていた。


 倒れたピジョンの横に、焦げたチップが落下している。


<ピジョン、君の勝ちだよ……まさかファイナルランデヴーを自分が受けることになるとは……僕はやはりヒーローの時代に「拘り」過ぎていた。ファルコンズという幻想から抜け出せずにいたのさ。負けの要因があるとすれば、その傲慢さだろうね。だが、心残りはある>


 重傷を負って全身から血を流し、既にヒーロースーツが解除されたピジョンこと鳩山は、ファルコン――本名・藤田ふじた隼人はやとの粉々になった肉体から飛び散った「電脳チップ」から脳内に語り掛ける声を聴いていた。


「俺だってそうだ。 歴史に名を残すこともできず、ファルコンズでもない、"ヒーロー側を経験した一人の男"でしかないんだ。え……心残りだって……?! 藤田、そりゃどういう?」


<あぁ、やっぱり美砂みさごを奪った鷲沢の奴は許せないってね……鳩山、頼まれてくれるかい? あ、そういえばさ……底辺と高さで求めるものって何だっけ……知ってたら、教え……>


 藤田のチップが永久停止する。


 その瞬間、突如、鳩山翔は力を取り戻し、ピジョンの姿に戻った。


「オぉぉ……確かにお前の願い、引き受けたぜ! で、すまない……えっとそれ物理? 化学だっけ?」



――統一暦120年の事件は「フェニックスシャドウによるテロおよび宇宙ハッキング未遂事件」として、容疑者全員死亡として記録されている。


 月面誘導破壊兵器USO-800および発展型USA-GI3は全て破壊されてヘルモニゲルツの研究所の残滓「ヘキサゴン」が大爆発四散し、以降一切の研究の痕跡はなくなった。


 『鳥獣GIGA構想による超越生体兵器UMA-No33』という単語はそもそも外部に流出されることはなかった。


 この後、日本地区の元ヒーロー・ファルコンズの一員だった藤田隼人・鷲沢秀人の両名がいずれも全身をバラバラにされ死亡していたことが明らかになるが、それ以降の歴史からヒーロー・怪人の両概念は一切登場することはない。


 ただし、ヒーロー史の中に確かに刻まれていることがある。


 ファイナルランデヴーは、間違いなく発動していた。


 それはヒーロー時代の終わりという結末を残して。


――


 

――統一暦122年、新東京市・新羽田タワマン(高さ999m)11号棟の283階に住む電脳チップ通販会社社長の河井美砂が、1階にあるコンビニ「ピースファミマ・タワマン・イレブン」に買い物に訪れた。


「全部で2800ガバメントになります。お支払いは?」


「生体認識で」


「……かしこまりました」


 名札に「H」と書かれた男性店員が、端末を美砂に素早く当て、支払いが終了する。


「あ、ピスチキ温めますか?」


「えぇ、頼むわ」





 ー終ー

 






ヒーローものならこういうのが良いな、という願望を込めて、

ヒーロー系戦記にしてみました。


感想などいただけると励みになるので、遠慮なくどうぞ!

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― 新着の感想 ―
早いもので、30代になってしまいました。 新作をいつの間にか投稿されていたのですね! 同じ吉村ワールドでも、近未来(ファンタジーではない?)にも独特の世界観を持っていて、凄いなと思います。 淡々と…
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