クイズ、●●人に聞きました
とある会社で部下が上司に尋ねた。
「さて、問題です。どうして人を殺してはいけないんでしょうか?」
上司は鼻から長大息を一つ漏らして、呆れるように答えた。
「悲しむ人がいるからに決まってるだろう。そんなことより、頼んでおいた書類は出来たのか。出来たならチェックするからさっさと持って来い」
しかしながら、部下は上司の言葉には耳を貸さず、
「悲しむ人がいなければ、人を殺してもいいんですか?」
「そういうわけではないが……。理由はどうあれ、人の命を奪うのは悪いことに決まっているだろう。法律でそう決まっているじゃないか」
「法律で決められていなかったら、人を殺してもいいんですか?」
「そんなわけないだろ、この馬鹿が。いいから早く仕事をしろ。それでなくてもおまえは仕事が出来なくて、みんなに迷惑をかけているんだ。無駄口なんか叩いてる暇ないだろ」
けれども、部下は上司の憎まれ口などまるで聞こえていないかのように両手で×を作って、
「ブッブゥー。正解は殺されたくないからでした」
「はぁ? 殺されたくないから?」
「そうです。人間は自分が殺されたくないから、人を殺してはいけないというルールで他人の行動を制限したんです」
「くだらん。それがどうしたっていうんだ?」
辛抱堪らず、上司は拳で机をドンと叩き、赤ら顔で声荒げた。
が、部下はそんなことはどこ吹く風と、
「それでは第二問です。法律を破ってもいいのは、一体どういう時でしょうか?」
「はぁ? 法律を破っていい時なんてあるわけないだろ。おまえはさっきから何を言っているんだ。ついに頭がおかしくなったのか? どんな時だって法律を破ったら警察に捕まって豚箱行きだ」
「はい、その通りです。どんな時でも法律を破れば、警察に捕まって罰せられます。罪の重さによっては、最悪死刑になることだってあるでしょう。だからみんな、刑罰を恐れて法律を守る。言うなれば、法律は人間社会における抑止力というわけです」
「それがわかってるなら、さっさと仕事をしろ。給料をもらう以上、それに見合った労働力を提供するのが、おまえの言う社会のルールってやつだろうが。まったく、おまえみたいなクズでノロマ、雇って貰えてるだけ有難いと思え」
感情に任せて投げつけられた資料が、部下の顔面を直撃して床に散らばる。
が、部下はそれすら楽しんでいるかのようにほくそ笑み、不気味なほどに淡々と続けた。
「課長、それでも社会の絶対的ルールある法律が、効力を失う時があるんですよ」
「いい加減にしろよ。おまえは本当にクビにならないとわからないのか」
「クビ? クビにしたければ、どうぞ好きにしてください。そうすれば、もう僕は課長の部下じゃなくなる。無理な仕事を押し付けられることもないし、こうして罵られる筋合いもないわけだ。だって、そうでしょう。僕は会社をクビになりたくないから、仕方なく課長の言うことを聞いていただけなんですから」
「何だと、貴様!」
「まぁまぁ、そう怒らずに最後まで聞いて下さいよ。課長が課長でいられるのは、あくまでこの会社の中だけだってことぐらい、課長だってわかってたことでしょう。みんなが課長の言うことを聞くのは、会社をクビになったら困るから。それは法律も同じです。みんな、警察に捕まりたくないから、刑務所に入れたくないから、仕方なく法律を守る。では、もう一度だけ聞きますね。法律を破ってもいいのは、いや、法律を破って人を殺してもいいのは、一体どういう時でしょう?」
「……おまえは本当に何を言っているんだ?」
怪訝そうに眉を顰める上司とは対照的に、部下は達観した表情を浮かべると乾いた唇をひと舐めして言った。
「ブッブゥー。残念、時間切れです。正解は、例え警察に捕まったとしても、それ以上に相手を殺したいと思った時でした。言ったでしょう、課長。法律はただの抑止力だって。だったら、殺意が刑罰に勝った時点で、法律は効力を失ってしまいますよね」
そういうと部下は懐に隠し持っていた包丁を振り上げ、上司に襲い掛かったのである。
何度も、何度も、繰り返し振り下ろされる包丁が、部下の積年の恨みを物語る。
そうして返り血で赤く染まった部下は物言わぬ上司に辞表を叩きつけると、包丁の刃先を自らの首筋に押し当ててこう言ったのだった。
「法律なんて守るも守らないも本人次第、過信しすぎると痛い目を見るってことですね。それでは課長、今まで仕事にかこつけて散々僕を虐めてくれて、ありがとうございました。これにて永遠に、さようなら」




