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Falls:Cascade  作者: C.A-yr-E.N
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010-ILINX_I

010-ILINX_I


 ガレージの天井は高く、無機質な照明が床を均一に照らしていた。

 梁や配線が剥き出しのまま残され、整備のために置かれた工具や端末が、壁際に整然と並んでいる。新しい場所ではない。何度も使われ、何度も準備が行われてきた空間だ。


 司は簡易椅子に腰を下ろし、正面に立つリヴィアと向き合っていた。

 彼女の手には通信端末が握られており、その上空にはホログラムが展開されている。


 二本の長剣が×字に交差し、中央に盾を配した紋章。

 アリーナ運営委員会のエンブレムだった。


 それを見た瞬間、司の胸の奥がわずかにざわつく。

 言葉にされる前から、意味は分かっていた。


「アリーナ戦の日程が決まったわ」


 短い一言だった。

 断定的で、いつも通りのリヴィアの声。だが、司にはその裏にある緊張が伝わってくる。平静を装っているだけだ。


「いよいよだね」


 確認するように言うと、リヴィアは小さく頷いた。


 その仕草だけで、司の意識が切り替わる。

 ようやく、という感覚が遅れて追いついてきた。準備をしてきた時間は確かにあったが、実感はずっと先送りにされていた。


「相手は……」


 リヴィアがそう口にしかけて、すぐにその表情が険しくなる。


 硬い。

 集中というより、警戒に近い。


「……あんまり、乗り気じゃなさそうに見えるけど?」


 探るようにならないよう、慎重に選んだ言葉だった。

 リヴィアは一瞬だけ司を見てから、視線をホログラムへ戻す。


「評判が良くないのよ」


 それだけだった。

 だが、それで十分だった。


 司は小さく首を傾げる。

 初戦の相手なら、互いに同じような立場だと思っていた。経験も実績も、これから積み上げる段階のはずだ。


 その横で、控えていたアゴンが静かに口を開いた。


「Sir.補足いたします」


 司はそちらへ視線を向ける。

 アゴンの声はいつも通り落ち着いていて、感情の揺れがない。


「対戦相手の戦績は、勝利数四、敗北数六でございます。数値のみで判断すれば、やや敗北が多い部類に該当いたします」


 司は頭の中で数字を転がした。

 特別に強いわけでも、極端に弱いわけでもない。


「ただし」


 アゴンは間を置かず続ける。


「戦闘内容に問題が確認されております。必要以上に相手《Cascade》を破損させる傾向があり、過去の試合では機体の大破、操縦不能が複数発生しております」


 司は背もたれに体重を預けた。


「あー……なるほど」


 勝敗の話じゃない。

 戦い方そのものが危険だ。


「Sir.もちろんダイバーにも重傷者が出ております」


 淡々とした報告が、逆に重く響く。


 要は、上を目指すよりも下位のままでいたいということだ。

 自分たちが気持ちよく戦える相手を選び、参戦してきた若手をつぶしている。


「そんな相手が初戦なわけか」


 声は落ち着いていた。

 怒りよりも先に、仕組みとして理解してしまった。


 リヴィアが低く息を吐く。


「そう。だから嫌なのよ」


 短い言葉だが、そこには判断の積み重ねが詰まっている。


 司は少し考えてから口を開いた。


「俺さ、初戦の相手って、同じ初戦の人が来るもんだと思ってた」


 責めるつもりはない。

 ただの認識の違いだ。


 それに応えるように、アゴンが説明を続ける。


「Sir.現在、司様とリヴィア様はFランクのアリーナダイバーで、同ランクのダイバーからランダムに選出されるのです」


「なるほどね」


 最下層。

 自分たちの立ち位置は明確だ。


「Sir.補足として申し上げますがFランクからEランクへの昇級条件は、十勝することです。もちろん敗北数は考慮されません。さらに付け加えると、十勝したからといって必ずしもEランクへ上がる必要もございません」


「……負けても、勝ちさえ拾えばいいし、なんなら初期ランクに残留も可能、と」


「Sir.その通りでございます」


 アゴンは続けた。


「その結果、危険性の高いダイバーがFランク帯に滞留する事例が発生しております。なお、昇級条件はランクごとに異なり、上位になるほど必要勝利数は増加いたしますし、勝利した際の褒賞金も跳ね上がります」


 司はホログラムの紋章を見つめた。

 整った制度のはずなのに、底の部分だけが歪んでいる。


「……そういう仕組みなんだな」


 納得はした。

 安心はできないが。



 司はホログラムに浮かぶ情報を眺めながら、指先で膝を軽く叩いていた。

 金属製の床は冷たく、靴底越しにわずかな振動が伝わってくる。ガレージの奥では整備用アームが待機状態のまま停止しており、時折、待機電力が流れる低い音だけが空間を満たしていた。


 話は一通り聞いたはずなのに、頭の中ではまだ整理が続いている。

 Fランクの歪み。勝利条件。観客の嗜好。運営の黙認。

 どれも理屈としては理解できる。けれど、理解できることと、納得できることは別だ。司の中に残るのは、どこか乾いた後味だった。


「……なあ、もう一つだけ聞いていい?」


 司は椅子の背から少し体を起こし、リヴィアを見る。

 視線を向けるだけで、彼女の立ち姿が視界に収まる。背筋は真っ直ぐで、体重のかけ方に無駄がない。話をしている間も、戦場に立つときと同じ姿勢を崩していなかった。


 先の話に逃げたいわけじゃない。

 ただ、進む前に知っておきたいだけだ。


「ランクが最上位まで行ったら、何があるんだ?」


 問いは素朴だった。

 称号か、報酬か。それとも、別の何かか。


 リヴィアは即答せず、端末から一瞬だけ視線を外す。

 ホログラムの光が彼女の横顔を淡く照らし、その輪郭を際立たせた。


「エルネの話にも出てたけど」


 そこで一度区切り、確認するように続ける。


「ルミナル女王陛下は、知ってる?」


 司は小さく頷いた。

 この世界の基礎は、ネイラから教わった。文字を読めない自分にとって、声で得た知識は、紙に書かれた文字よりもはっきりと形を持つ。


「うん。ネイラから聞いたよ」


 司は自分の記憶をなぞるように、言葉を並べる。


「滝が大陸を断つ異世界ラグラシアで、滝の西側の大国ルミナルの女王。国をまとめて、統治に力を入れてる人、だよね」


「その通り」


 リヴィアは短く答えた。

 肯定以上の感情は乗せない。だが、それで十分だった。


 端末の表示が切り替わる。

 ホログラムが一度消え、別の情報が立ち上がる。


「アリーナの最上位、Exランクまで行くと」


 一拍置いてから、続ける。


「女王陛下直轄の組織に、声がかかる」


 司は眉を上げた。

 アリーナが国家と結びついていることは察していたが、ここまで直接だとは思っていなかった。


「直轄……?」


「女王の誓約楯アエギス・レギナ


 その名が、司の頭の中で静かに反響する。

 意味は分かる。誓約と楯。守るための組織。

 だが、その重さはまだ測れない。


「……女王の誓約楯」


 司は復唱した。

 覚えるためというより、音として確かめるためだった。


「そこに入るってことは、国の仕事を請け負う、って感じ?」


 リヴィアは肩をすくめる。


「名誉もあるし、金も出る。装備も、情報も回る。ダイバーが目指す目標として、これ以上の物はないわ」


 並べられる条件は、どれも魅力的だ。

 同時に、それらが示す責任や危険も、司の頭には浮かんでいた。


「……まぁ、そこまで駆け上がることなんて不可能だから、覚えなくていいわ」


 リヴィアは淡々と言い切った。

 突き放すというより、現実を切り分ける口調だった。


 司は軽く息を吐いた。

 否定されたわけじゃない。ただ、今考える段階じゃないと言われただけだ。


「……そっか」


 その空気を切り替えるように、リヴィアが話題を戻す。


「今の問題は、そこじゃない」


 ホログラムが切り替わり、二つの名前が並ぶ。

 文字と同時に、簡易的な機体シルエットが表示された。


「アンバスと、ケィド。私たちの初戦の相手よ」


 司は名前を頭の中で転がした。

 響き自体は普通だが、これまで聞いた情報が一気に重なり、嫌な重みを帯びる。


「役割分担がはっきりしてる戦闘スタイル?」


 二対二であることは分かっている。

 知りたいのは、その中身だ。


 アゴンが静かに口を開いた。


「Sir.両名の搭乗機は、ルミナル正規軍払い下げの三世代前主力機リバーでございます」


 その言葉を聞いた瞬間、司の中で短い記憶が弾いた。

 ガルドのパーツショップ。薄暗い店内。中古機特有の使用感。

 テスト目的で触っただけの操縦。癖がなく、余計な主張のない感触。


「《リバー》は突出した性能を持たない代わりに、非常に素直で扱いやすい汎用機でございます。戦闘レンジの適性は、機体ではなく搭載武装と運用思想に依存します」


 司は黙って頷いた。

 あの時の印象と、説明がきれいに重なる。


「アンバスおよびケィドの機体に、大規模な改造は確認されておりません。世代相応の整備と部品更新のみで運用されています」


「単純に整備に回すお金が酒代に消えてるのよ」


 リヴィアが苛立ったように憶測を口にする。


 その言葉に一瞬アゴンが肩をすくめ、続ける。


「両名共にレーザーアサルトライフルを主武装として選択し、中~遠距離戦を得意としております」


 リヴィアが短く補足する。


「付け加えるなら、アンバスがより前に出て、ケィドは有効レンジギリギリから射撃してくるわ」


「Sir.その通りでございます」


 アゴンは続けた。


「相手機体の損傷が進行し、姿勢制御および応答性の回復が困難と判断された時点で、両名は距離を詰める傾向があります」


 司の指先が止まり、背もたれに体を預けた。

 癖のない機体だからこそ、使い方がそのまま人間の色になる。


 止めてから詰めるんじゃない。

 壊して、逃げ道が消えたと見切ってから詰める。


「……なるほど」


 声は落ち着いていた。

 嫌悪より先に、構造として理解してしまう。


「Sir.なお、そのような戦闘を好む観戦者も一定数存在します」


 アゴンの声は変わらない。


「アリーナ運営側も、興行上の必要悪として黙認している側面がございます」


 司はホログラムを見つめた。

 機体は普通。戦法は選択。評価する観客と、許容する運営。

 歪みは、一箇所じゃない。


「……そういうの、好きな人もいるんだろうな」


 理解はできる。共感はしない。


 リヴィアが低く言った。


「だから危ないのよ」


 短い一言が、すべてをまとめていた。


 司は一度だけ深く息を吸い、ゆっくり吐く。

 怖い、とはまだ思わない。ただ、避けられない相手だという実感が、静かに腹の底に沈んでいく。


 リヴィアが手に持つ端末からホログラムが浮かび上がり、二機のシルエットがゆっくりと回転を続けていた。

 アンバスとケィド。その名前と戦い方を聞いたあとでは、ただの線画にすら妙な重みが宿って見える。


 司は背もたれに預けていた体を起こし、視線をリヴィアに戻した。

 ガレージの天井から落ちる照明が、彼女の輪郭をはっきりと縁取っている。


「……以上を踏まえて、司」


 リヴィアは端末を操作しながら、淡々と続ける。


「あなたの兵装構成だけど」


 一拍。

 ホログラムの表示が切り替わる。


「中~遠距離用の射撃兵装に寄せるか、ミストシーカーみたいに遠距離特化にするのが妥当だと思う」


 理屈としては、分かる。

 アンバスとケィドは距離を保ち、破損を積み上げてから詰めてくる。その土俵に付き合わないためには、同じか、それ以上の射程で牽制するのが安全だ。


 司は少し考えてから、首を横に振った。


「いや……それはやめた方がいいと思う」


 リヴィアの指が止まる。


「理由は?」


「ミストシーカーが遠距離特化で動くならさ」


 司は床の整備ラインに視線を落としながら続けた。


「俺は前にいた方がいい。二人の足を止める役に回った方が、全体としては楽になると思う」


 リヴィアは眉をひそめる。


「司」


 低く、短く名を呼ぶ。


「今のあなたの機体、満足に動いていないわ」


 声は断定的だった。


「射撃武器も、実射はほとんどできていない。そんな状態で前に出て、どうやって戦線を維持するつもり?」


 正論だ。

 司はすぐに返せず、指先で膝を叩いた。


 そのときだった。


 ガレージの入口側から、軽い足音が近づいてくる。

 整備用の端末を抱えたミストラルが、三人の視界に入った。


「お話し中、失礼いたしますわ」


 誰に対しても変わらない、柔らかなお嬢様口調。

 だが、その表情には技師としての真剣さが浮かんでいる。


「アリーナ戦の参加条件について、少し気になる点がありまして」


 司とリヴィア、そしてアゴンの視線がミストラルに集まる。


「条件、ですか?」


 司が自然に問い返す。


「ええ。どのようなOSであれ、OS搭載機であることが必須条件になっておりますの」


 司は内心で、やっぱりか、と小さく思った。


「司の機体には、ガルドのパーツショップで譲っていただいた最低位のOSが搭載されていますわね」


 ミストラルは端末を操作しながら続ける。


「ですが……プロテクトの解除が、九十九パーセントで止まっておりますの」


 リヴィアの視線が鋭くなる。


「解除できない?」


「ええ。削除もできませんし、これ以上先に進めません。このまま搭載する形になりますわ」


 司は肩をすくめた。


「まあ、動いてはいるからね」


 軽い口調だったが、ミストラルは首を横に振る。


「現時点と、完全解除後で、OSとしての性能差はほとんどありません」


 そこに、アゴンが補足を入れる。


「Sir.解析結果から判断する限り、当該OSの役割はダイバーの操縦技術を各パーツへ伝達することに限定されます」


 淡々とした声。


「Sir.プロテクト解除の有無による実戦性能差は、誤差の範囲と判断されます」


 司は少し安心したように息を吐いた。


 だが、ミストラルの表情は依然として硬い。


「それでも……ですわ」


 端末を胸に抱え直す。


「技師としては、未完成、あるいは整備不良と見なされる状態のまま、戦場へ送り出すことに抵抗がありますの」


 司はミストラルを見た。

 責任感から来る言葉だと、はっきり分かる。


「うーん……」


 少し考えてから、司はいつも通りの調子で言った。


「アリーナ戦だからって、毎回万全の状態で戦えるってものでもないと思うんだ」


 軽い口調。

 だが、迷いはない。


「完璧じゃないから負ける、ってわけでもないし。そこまで重く考えなくてもいいんじゃないかな」


 まるで、自分が負けることを前提にしていないような言い方だった。


 ガレージの中に、一瞬だけ沈黙が落ちる。

 リヴィアは司を見つめ、ミストラルは言葉を探し、アゴンは静かに情報を整理している。



 ガレージの空気は、先ほどまでよりも少し重く感じられた。

 照明の白い光は変わらず床を照らしているはずなのに、そこに映る影の輪郭が、どこか濃くなったように見える。


 司は椅子に深く腰を下ろしたまま、視線だけをホログラムへ向けていた。

 アンバスとケィドの戦法、機体構成、運営の姿勢――必要な情報は揃っている。

 だが、情報が揃ったからこそ、確認しなければならないことが一つあった。


「……念のため、ルールを整理させてほしい」


 司がそう切り出すと、リヴィアは小さく頷いた。

 アゴンも、ミストラルも、口を挟まずに続きを待つ。


 司は頭の中で条項をなぞりながら、言葉にする。


「アリーナ戦で勝敗が決まる条件は、二つだけだよね」


 一つ、指を立てる。


「どちらか一方の二機が、両方とも機能停止した場合」


 続いて、二つ目。


「もう一つは、一機が機能停止している状態で、残った一機が半径十キロのドーム状エリアから戦場離脱した場合」


 言い切ってから、司は肩の力を抜いた。


「時間切れはないし、降参もない」


 その事実を口にすると、改めてこの競技の歪さが浮かび上がる。

 終わりは、必ず「動けなくなる」か「逃げる」かのどちらかだ。


「……合ってるわ」


 リヴィアが短く答える。

 その声には、余計な感情は含まれていない。


 司は頷き、視線をホログラムから外した。


「アンバスとケィドが卑劣な戦い方を好むのは分かった」


 リヴィアがわずかに眉を動かす。

 司は続けた。


「でも、ルール上、彼らは必ず一機目『しか』大破に追い込めない」


 言葉を選びながら、論理を組み立てていく。


「二機とも機能停止させたら、その時点で勝利が確定する。そうなったら、それ以上の加害行為はできないからだ」


 司は一拍置いた。


「だから、二機同時に大破……ダイバーが重症を負うことはないだろう?」


 それは、冷静に見れば“安全策”とも言える。

 少なくとも、二人同時に徹底的に壊されることはない。


 ガレージの奥で、整備用アームが低く唸る。

 その音が、司の言葉の余韻を引き延ばした。


「このルールで考えると」


 司は前を見据えた。


「俺は初の戦闘、リヴィアも初の対人戦になる。最悪の事態を避ける方法は、一つしかないと思う」


 リヴィアは口を挟まない。

 だが、その視線は、司の言葉を一つも逃さず捉えている。


「俺が前に出て、戦線を維持する」


 司は淡々と続ける。


「無理に押さえ込む必要はない。緩やかに後退しながら、相手の動きを制限する、当たればラッキーくらいの認識だ」


 そして、視線をリヴィアへ向けた。


「リヴィアは、俺のさらに後ろで後退を続けつつ、有効射程ギリギリから射撃」


 ガレージの空気が、少しだけ張り詰める。


「もし、俺が何らかの事情で行動不能になったら」


 司は一瞬だけ言葉を切った。


「その時点で、リヴィアは即座に戦線を離脱する」


 それは、敗北を意味する。

 だが同時に――


「これなら、俺が大破に追い込まれる前に、『敗北』という結果が出る」


 司の声には、妙な落ち着きがあった。

 自分がどうなるかよりも、状況の収まり方を優先している。


 リヴィアは腕を組み、難しい顔をした。

 否定でも肯定でもない、考え込む沈黙。


「……理屈は分かるわ」


 やがて、そう口を開く。


「あなたの言う通り、一理ある」


 リヴィア自身も、初めての対人戦だ。

 経験がないことを、彼女は誰よりも正確に自覚している。


「理想論じゃない。現実的な話よ」


 その言葉は、司の考えを切り捨てるものではなかった。


「危険を最小限に抑える、って意味では……間違ってない」


 アゴンが静かに頷く。


「Sir.戦闘ルールおよび敵性傾向を加味した場合、当該戦術は合理的と判断されます」


 淡々とした声だが、そこに否定の余地はない。


「司様が戦線を維持し、リヴィア様が後退しながら援護する構成は、敗北条件への移行を迅速に行えます」


 ミストラルは、端末を胸に抱えたまま、しばらく黙っていた。

 技師としての視線で、司の機体状態を思い浮かべているのだろう。


「……その作戦でいくのであれば」


 少しだけ、声を落として言う。


「わたくしも、参戦を認めますわ」


 言葉の端に、迷いが滲む。


「正直に申し上げて、不安は残ります」


 それでも、彼女は視線を逸らさなかった。


「ですが、無謀ではありませんわ。無茶とも言い切れませんから」


 しぶしぶ、といった調子で、ミストラルは頷いた。


 しかし、直後にミストラルは司の眼を見た。


 そこには瞳がバタフライでもしているのかと疑わしく思えるほど、『目が泳いでいる司』が居り、

 リヴィアとアゴンを納得させるだけの作戦で司がその通りに動くとは到底思えなかった。



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