禁書庫の攻防と、影の神官
―「闇に染まる意志」が、静寂を破るとき―
禁書庫が震えていた。
壁に刻まれた古代魔術陣が、ゆっくりと音を立てて崩れ始める。
空間を守っていた結界が、外からの“力”によって引き裂かれようとしていた。
「来たか……深淵教団。」
レンは、静かに前へ出た。
彼の視線の先、巨大な石扉の向こうには――漆黒の靄と、不気味な気配。
「“虚無の継承者”……貴様の目覚めが、我らの儀式の始まりとなる。」
声が響く。
現れたのは、教団の高位司祭――影の神官《ネベル=シェルヴァ》。
黒紫の祭服、両眼を覆う布、そして浮遊するような脚。
その存在自体が、異質な“神性”を持っていた。
「ネベル……七年前、王都を壊滅させた張本人か。」
「よく覚えていたな。“かつての君”には、随分と苦しめられたからな。
だが今は違う。今度は“我ら”が、お前のすべてを奪う番だ。」
背後には、十数体の使徒――影の傀儡たち。
すべてが異常な気配をまとい、ただの魔物ではないことがわかる。
戦闘開始 ― 禁書庫の攻防
「ユナ、下がってろ。」
「ダメです。私も戦います。これは、私たちの物語でしょう?」
ユナは、胸元の“王家の鍵”を強く握る。
その瞬間、金色の紋章が彼女の周囲に展開された。
《王家術式・防壁陣《煌槍陣》》!
光の結界が広がり、使徒たちの突撃を阻む。
一方、レンはゆっくりと右手を掲げた。
「……見せてやるよ。虚無の現在形を。」
空間が暗転する。
彼の足元に広がる黒い魔法陣――それは、かつて王国を震撼させた秘術。
真虚無陣
闇でも光でもない――“無”そのものを圧縮し、術式として展開する究極の結界魔法。
「全ての術式を、喰らえ。」
ゴオオオッ!!
空気が軋む音。
影の使徒たちが次々と飲み込まれ、存在を“消去”されていく。
ネベルが口元だけで笑った。
「なるほど……やはり君は、虚無の王に相応しい。
だが……それだけでは、私を倒すには“足りない”!」
ドシュッ!
ネベルが手をかざすと、空間が“ねじ曲がった”。
まるで世界の法則を否定するように、全ての結界が軋む。
「これは……!」
神喚術《堕星の触手》
空から現れたのは、巨大な黒い腕――神性と虚無を掛け合わせた禁断の召喚術。
それは空間を削り、魔法すら無効化する。
「ユナ、危ない!」
レンがユナの前に立つ。
そのとき――
「……ダメ、私も守る!」
ユナの瞳が金に染まり、鍵が強く輝いた。
王家禁呪《始原の光刃》
彼女の掌から放たれた光の刃が、触手を一刀両断する。
空間が再び安定を取り戻した。
「……ユナ、お前……その術は……」
「記憶が、少しずつ戻ってる。父が教えてくれた術……身体が覚えてるんです!」
レンは小さく微笑んだ。
「なら、もう安心して背中を任せられるな。」
クライマックス:影の神官との決着
レンとユナが並び立つ。
「虚無と光……お前たちは、確かに世界の“選択”となる存在だ。」
ネベルの布が風に煽られ、最後の術式を展開しようとする。
だが――レンが先に動いた。
「終わらせる。」
虚無式・最終断《終閃》
闇の中から、ただ一閃の“断絶”が走る。
世界の音が一瞬だけ止まり――次の瞬間、ネベルの体が裂けた。
「──美しい……この絶望……が……世界を……」
その声を最後に、影の神官は虚空へと消えた。
戦いの後
静寂が戻る禁書庫。
だが、レンとユナはその場に立ち尽くしていた。
「終わったの……?」
「いや。始まったんだよ、“本当の戦い”が。」
ネベルの残した言葉――**「儀式は始まった」**という呪い。
禁書庫の奥で、何かが脈動を始めていた。
世界の均衡が揺れ、七度目の崩壊が――静かに、確かに、近づいている。