禁書庫への旅立ちと、最初の試練
―その扉の先に、真実が待っている―
「……禁書庫へ、行くのか?」
村長・バリオスの問いに、レンは迷わず頷いた。
「はい。ユナの持つ“鍵”は、ただの遺産ではありません。このままでは、また村に危険が及びます。」
「……そうか。」
バリオスはゆっくりと椅子から立ち上がった。
「君が来てから、村には何度も危機があったが……不思議と、恐ろしくなかった。
それは、君の中にある“何か”が、この村を守ってくれていると、みんな感じていたからだ。」
レンは何も言わなかった。ただ、深く頭を下げる。
「帰ってこられるのか?」
「……ええ、必ず。」
その言葉には、迷いはなかった。
翌朝。
茶屋の前に、ユナが旅装を整えて立っていた。
白いマントに、銀の髪飾り。
胸元の“王家の鍵”が、淡く輝いている。
「準備、できました。」
「よし。行こうか。」
レンは、腰の茶刀を軽く握る。
虚無の力を宿す特注の武器――「刃」ではなく「静けさ」を生むための道具。
ユナが最後に村を振り返ったとき、子供たちが手を振っていた。
「いってらっしゃい、ユナお姉ちゃん! レンさーん!」
「……絶対、帰ってこようね。」
「もちろんだ。」
二人は北へと歩き出す。
禁書庫の入口があると言われる古代遺跡「リグナの谷」へと。
道中:リグナの山道
森を越え、古い山道にさしかかったとき、急に気温が下がった。
そして、空気が……重い。
「……レンさん、ここ……」
「結界だ。しかも、“試練の結界”。」
リグナの谷は、王家が最初に建国した地にして、魔術師の聖域でもある。
そこへ入るには、“選ばれし者”である証を、結界に示さねばならない。
「ユナ。鍵を前に出して。」
ユナがそっとペンダントを掲げると、空間に黄金の紋様が浮かび上がった。
《王家の鍵、継承者認証中……》
古代語の音声が響く。
《記憶の継承、未完成。守護者の支援、必要。》
《条件一致。――開門試練、開始。》
瞬間、地面が震え、周囲の景色が“変わった”。
空が赤く染まり、周囲は廃墟と化した都市。
どこかで見たような、しかし異質な空間。
「ここは……?」
レンの目が細くなる。
(これは――俺の“過去”の記憶か?)
《第壱試練:罪過の影と対峙せよ》
目の前に現れたのは、白いローブを纏った“自分”自身。
「……過去の俺、か。」
虚無王クロザキ・レン。
全盛期の力と冷酷さを持った、かつての“自分”。
その存在が、無言で虚無の刃を構えた。
第一試練:過去との戦い
「君が乗り越えなきゃいけないのは、敵じゃない。
“過去の自分”だよ、レン。」
その言葉を、レンは自らに言い聞かせる。
刃が交わる音。
空間が揺れる。
現在のレンは、意図的に力を封じている。
だが、この“試練”の自分は、容赦などしない。
(本気でいかないと、やられる。)
「虚無結界・式伍《零識》!」
視界が一瞬にして暗転し、互いの位置が入れ替わる。
レンは過去の自分の背後を取り、寸前で刀を止めた。
「……俺は、もう“王”ではない。」
「でも、守りたいものがある。だから――前に進む。」
すると、白いローブの“過去の自分”は、すっと姿を消した。
空間が砕け、現実が戻ってくる。
《第壱試練、通過。》
試練の後
ユナは、レンを見つめていた。
「……何が見えたんですか?」
「過去の俺さ。あれが、“力しか知らなかった俺”だ。」
「今のあなたは……“誰かのために力を使う人”です。」
レンは少し笑って、頷いた。
目の前には、大きな石の扉が現れていた。
《王家の禁書庫――門を開放します》
扉が、音もなくゆっくりと開く。
そこに広がっていたのは、無限に続く書架と魔法陣の空間――
そして、すべての“始まり”の記録。
世界の秘密。虚無の起源。
そして、ユナとレンの“本当の繋がり”が、いま明かされようとしていた――