惑星
いつものことではあるが、その日もやることがなかった。
外では赤砂の砂嵐が吹き荒れており、しばらく外出できそうにもなかった。
「またこいつと一緒かあ」
私はソファに寝そべりながら、机の隣に置いてある透明な檻を眺めてそう言った。
そこには、私が火星での生活を共にする生物が入っているのだった。
火星行きの話を聞かされた時、私は静かな興奮と未知への探求心に包まれた。
火星はまだ移住をする人間が少なく、そのほとんどは火星生活に人類が適応するための研究員として送られてきていた。
私も、その一人というわけだ。
「私の任務は、なんなのでしょうか」
私は辞令を伝えてきた上司にたずねてみた。
上司は資料を確認しながら、こう告げた。
「君はどうやら、ドーベルマンと一緒になるみたいだ」
そう言われながらも、私はまだいまいちピンと来ていなかった。上司の顔には、何か核心に迫ることを避けたいような色があらわれていた。
「それだけですか?」
私はさらにたずねてみた。
「犬と暮らしてゆくのが任務ですか?」
上司は一瞬ハッとしたような顔をしたが、すぐにたたずまいを直した。
「その通りだ。環境への適応を調べるのが君の役目だ」
そう言って、上司は私の肩を叩いた。
「人類の火星進出の発展には必要な役割だ。頑張りなさい」
そう言いながらも、上司の視線はどこか私からずれたところにあった。
あわただしい準備の期間を経て、私は火星へと旅立っていった。
火星での私とドーベルマンの生活は何事もなく過ぎていった。最初は慣れない火星住まいだったが、私もドーベルマンも、それなりに火星と順応していった。私と彼は良き友だった…………。
睡眠ガスで眠りこけている私と犬を、二人の男がガスマスク越しに見下ろしていた。あたりには、まだガスが充満していた。
一人の男が檻の中のドーベルマンを確認する。もう一人はどこかに連絡をしていた。
「こちら実動班。対象の入眠を確認しました。これから研究所に向かいます。よろしくお願いします。…………」
男は電話を切り、眠っている私を見つめた。
「可哀そうに。何も知らないのだろう。知っている人間が、ああものんきに暮らせるものか」
男たちはその後、家じゅうに仕掛けられてあった監視カメラを回収した。男たちが手に持つ資料には、
「火星テラフォーミング計画の対象者の拘束について」
という文言が載せられてあった。




