9話
「ただいまマリアさん! シープロの確認してもらっていい?」
「はい、おかえりなさいませゼンジ様。 少々お待ちくださいねっ」
待てない。いや、待たないと。でも、はやく戻らないとリンカが店をあとにしていたらどうしようか――
ゼンジはギルド【神の牙】のカウンターに何度も指を打つ。とんとんとん、とんとんとんとん、とんとんとんっ。
「お待たせしました」
「待ちました!」
ゼンジは今、感情を隠さない。良くも悪くも、出し切ってみると決めている。
マリアはくすっと唇に手を当てながら、もう一方の手に持った紙を見る。
「記録映像から自動的に検出された内訳ですが、能力持ちが三体と、野良が十二体⋯⋯あれ? 少ないですね、直接確認してくるのでお待ちくださ」
「あっ、違うんだよ、それであってる。 魔王に捕まって成果が伸びなかったんだ」
「ああ魔王に。 魔王に?」
「そうだ! マリアさん、映像切り取って編集しといてくれない? 魔王と会話してるとこ、映しちゃったよ」
通常、冒険者たちは戦闘時にのみシープロを起動する。微々たるものとはいえ、魔力を温存する必要があるためだが、ゼンジのそれは無尽蔵だ。限界を、まだ知らない。
しかも今回はうかれきっていた。はっきりいって凡ミスだった。
「魔王と談笑ですか⋯⋯いえ、その件はお任せください。ですが、くれぐれもお気をつけくださいね。 神聖国家【キョウド】では、モンスターに友好的であること自体が裁きの対象ですから」
「うん、気をつけます。 絶対悪なんだもんね」
“能力持ちと野良”、意識を持つモンスターと持たないモンスターの二種が存在し、何らかの形で本来の自我を得た能力持ちの中には、人間と友好関係にある者もいる。
ゼンジがウロコをはいだ蛇女と若手冒険者の唐突な告白劇は特殊な例としても、婚姻関係を結ぶ者はこの十二年で増える一方だ。キョウドを除く他国では、の話ではあるが。
「そうだよな⋯⋯さすがにその映像が出回るとこの国にいれなくなるか」
地元が好きだ。ゼンジの記憶の最初にあるのは、カイセの街だから、ここが地元なのだろうと思っている。多額の寄付により貧富の差が狭まったとはいえ、キョウド全体を見ればまだスラム街もある。厄介かつ独特なルールだってある。それでも、ゼンジは地元が好きだ。
疲れ果て、死を考えたとき、この街に戻ってきていた。頼る人もないのに、ここにいた。
だから、追い出されるわけにはいかない。
「やっぱり、俺も同席するよ。 編集、横で確認する」
人生を托すことはもうやめた。マリアを疑いもしないし、信用もしない。望む未来を根拠もなく誰かや何かに任せることは、もうやめたのだ。それなら、疑わずにすむ。
「かしこまりました。 それではゼンジ様、奥にどうぞ」
「うむ」
「いえ、あちらに入り口がありますので、カウンターをよじ登るのはご遠慮ください」
「はい」
ゼンジは素直に従った。
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