8話
速報! ゼンジ、魔王に捕まる――!
「勇者よ、世界を破壊しようなどとどうして企んだのか、ワシはさっぱり思い出せんのじゃよ。 それに魔王が倒れたとき、それまで犠牲となった者たちが復活する理由もだ。ワシら魔王にそこまでの力はない。いや、もっといえばワシら魔王とは何なのかさえもわからんのじゃ。
お主に城を砂山にされたとき、魔王の間で玉座にふんぞりかえっとったワシは自我を失うほどに恐怖した。
あれがきっかけで目が覚め、いまは慈善の旅を続けておるのじゃよ」
「へ、へー、そーなんだ。 ⋯⋯さっきも聞いたなこれ。 あのな魔王、俺はモンスターを」
カイセの街から遠く離れたコルガ山の山頂にゼンジが来たとき、太陽は真上にあった。音楽用魔導ギアの購入にこれからいくら必要になるか分からないし、
いっそのこと「大物ぶん殴ってでっかく稼いどくか!」と気合いをいれて出張ってきた矢先、ばったり再開したいつぞやの魔王にお茶と串団子を手渡されたのだ。
あれからどれくらいの時間が過ぎただろう、空は赤くなり始めていた――。
「モンスター。 そうじゃ、奴らもみな、感謝しとったのう。 もちろん、自我意識を持つ者たちじゃ」
しかし、おじいちゃん魔王は語る。
(そうゆうところだぞお前、その口縫いつけてやろうか)と思いつつも別れを切り出せない。欲望に素直に生きると決めたものの、善意に束縛されてきたゼンジ、タイミングがつかめない。
「お主は精神がぶっ壊れるほどに乱暴じゃったが命を奪うことはなかったからの。
そのおかげで、自分の意思を持てた気がすると口をそろえていっておったよ。
のう勇者ゼンジよ、お主のおかげでワシらは今とても幸せじゃよ」
ゼンジは「そうか」と真剣な顔つきでうなずく。その眉間にシワが寄っているのは、一刻も早くコーヒーショップに戻ってミュージックディスクを手に入れたい一心からだ。
幸せな近況報告など、腐るほど聞いてきた。
「よかったよ、それは本当に思う、よかったよ。 だけど俺はもう英雄でも勇者でもない。 楽しんでるんだ。 そろそろ行くとする」
「⋯⋯そうか、長話に付き合ってくれて感謝する」
「おう」
「――おおそうじゃ、最後に一曲聴かせてくれんか」
密林にぽっかりと大穴があいたような山頂の中心で、ゼンジがまっすぐに前を向いて立ち上がると、魔王は穏やかな声でそういった。
「一曲? 俺はまだ歌詞の一つも書けてないといっただろう」
「なんでもよい。ふふっ、聖歌でもよいぞ。 ここで会ったのも何かの縁、どうじゃ? 人前で歌う前に、ワシで慣れておくのもよいだろう」
「慣れるも何も」ハッ――ゼンジが偉大なる気づきを得たのはこのときだ。
(俺、生まれてこのかた歌を歌ったことなかった⋯⋯⋯!)
「どうした? 緊張してきたのか?」
「やべえ」
ゼンジの体は猛烈に震えている。
「どうしてこんなに自信に満ち溢れてるんだろう、俺、多分すげえ歌声出せる気がするッ」
「おうおうそうか、それは結構じゃのう。 これは楽しみじゃ」
ほのぼの老人会のゴロウさん(八十九歳)のように手拍子を始めるおじいちゃん魔王。
世界よ、いまこそ聴かせてくれよう、俺の歌声を――ゼンジは大きく息を吸うと、全力でメロディーを奏でる⋯⋯!
「“死に死に死に死に晒せーーッ! この世はロクナモンジャナイネェェエ――ッ”」
そのとき、おじいちゃん魔王が泡を吹いてぶっ倒れた。
「ジジイ――ッ!?」
「す、すごい歌声じゃ、った、の」
「感動しすぎたかァァアーーーーー!」
木陰に魔王の背を預けると、ふんっふふんっ「ロクナモンジャナイネ〜」と大きな声量で鼻歌まじりに、コルガ山をくだって帰路に着くゼンジ。
モンスターはおろか、虫や小動物たちさえ姿を見せないことに、ゼンジは気づかない。




