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7話

 前半ゼンジ、テンションが振り切ってます。

「こ、ここは俺に任せて逃げろ!」


「そんな!」「リーダーダメよ」「無理だ!能力持ちだぞ」


「俺だって死にたくはないさ! だけど、最後くらいリーダーとして」


「くっくっく、喰ろうてやる喰らうてやる。 余計な気を持たずともきさまらみーんな喰ろうてやるから安心せ――」


 泣きじゃくる四人の若者冒険者の目前で、蛇の下半身と人間の、美しき女性の姿を持つモンスターが舌なめずりしたとき、


「――その舌もらったァァァァァァア――ッ」


「ピギャァァァァァ――ッ!」


 長くぬめりのあるそれを掴んで見事に一本背負い投げ!――「殴、るのは女性の顔には無理だ! 観念するまでそのウロコはいでくれるわァァァァア!」「ピギャァァァァァッ!」1枚2枚3枚4枚⋯⋯


「5枚⋯⋯⋯⋯⋯エロい」「「「リーダーえっ!?」」」


「ゆるしてたもぉーーーーー! もう、もう! 人間は襲わない! わらわ、大人しくするぅ!」


「よっしゃ十二万! 次のヤツ出てこいやァア――ッ!」


 男は走り去る。金づるを探して。


「なんだったんだ今の⋯⋯」


「リーダー、みなかったのか。 あのお方の口元を」


「わたしは見たわ。 ちょっと噂と柄が違ったけど、この強さは間違いないわ!」


「そうだ、あのお方こそがこの世界にいくども平和をもたらした――」


「「「――――花柄スカーフの英雄様だッ!」」」

 

「それよりも俺と付き合ってくれないか。 モンスターよ、ウロコは剥がないとここに誓う」


「!? よ、喜んでなのだぁーーーーーーッ!」


「「「リーダええええええッ!!!」」」


「はいドーーーーーンッ! 八万ゲットォォォオ!」


 片膝つくリーダーの差し出した手を蛇女が受け取り、どこからか金の亡者と化したバンダナ隠しあらため花柄スカーフの英雄の雄叫びが聞こえたところで、話は冒険者ギルドを訪れた時点に戻る。


「ミュージックディスク⋯⋯でへへっ、30万なら安い安いっ」


「お、お待たせしました、次の方どうぞぉ⋯⋯?」


「おっと」ヨダレをふき、カウンターごしに受付嬢さんに冒険者ライセンスを渡すゼンジ。


「お預かりいたし――バンダナ隠しの――」


「――しッ!」


 またやらかした、そして唇に無断で触れてごめんなさい、と思いつつ、ゼンジは受付嬢の口元から手を離す。


「もう俺はそれじゃない。 今日は入り用で稼ぎに来ただけだ」


「それじゃない⋯⋯?」


「英雄業はやめた」


「引退ッ!?」


 冒険者ギルド【神の牙】のマドンナ受付嬢、マリアの叫びに視線が集まる。とはいえ無理もない。国家権力が首輪をはめることさえ恐れる英雄が、それでいて民たちから親しまれるヒーローが、その物語に幕をおろしたというのだ。


「ちょっとマリアさん、声が大きいよ」


 一方ヒーローは周囲に慌ただしく手のひらをふって「なんでもないですよ」アピールしたあと、内緒話をするおばちゃんのようにその手のひらをぶらぶらしているのだが。


「い、いえ、はい、申し訳ございません。 あくまで冒険者は自由業、とはいえ、よろしければ理由をお聞きしても?」


「俺、歌手になるんだ!」ゼンジは夢を口にすることにためらいがなかった。


「は、はあ」マリアは理解が出来なかった。


「英雄様とはいえ、人にはそれぞれ事情がありますよね、わかりました。 私共としてはこうして依頼を受けに来ていただけただけで充分です」


「へっ?」と口をぽかんと開けたままのゼンジに、マリアはピアスを手渡す。


「それでは英雄様、“シープロ”をどうぞ」


「ありがとう⋯⋯? これからはゼンジでたのむ」


 冒険者はライセンスと引き換えにこの黒い粒のついたピアスを受け取り、それぞれの仕事につく。モンスター討伐や依頼達成を証明するための、映像記録用の魔導ギアだ。


「それと余計なおっせかいではありますが、こちらのスカーフをどうぞ」


「スカーフ? ああいや、顔を隠すことはもうやめたんだ」


「ですが、英雄であることが露呈するのは避けたいのでは⋯⋯?」


 ゼンジの傷跡だらけの手で口を覆われたことから、マリアはそう考えた。


「⋯⋯バレると思う?」ひそひそゼンジ。


「実力に違いがありすぎますので」ぴしゃりとマリア。


「そうか⋯⋯音楽で勝負したいしなあ」


 ゼンジは花柄のそれをありがたく受け取ることにした。


「ゼンジ様。 お気をつけて、いってらっしゃいませ」


「⋯⋯⋯うん!」


 意気揚々とゼンジはギルドを出る。名を呼ばれ、英雄ではなくゼンジの身を気にかけてくれた。それが、こんなにも嬉しいことだったなんて――。


「よーーーーし、みなぎってきたぁぁぁぁあ! 待ってろドーナツ盤!」


 思ったより子供っぽい、いえ、お茶目なオジサマだったのね――と、マリアが頬をほころばしたころ、ゼンジは無邪気な少年のような笑みを浮かべてカイセの街の空を屋根伝いに走る。



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