6話
その音は深く激しく大胆で、それでいて心地よくて!俺はその音に、深海を見た――そう熱弁するゼンジの顔は、完全にイカれていた。
「すすすストッーーーープ! わかったから! おにーさん、わかったから! ほんとに危ない人みたいな顔になってるよ!? とりあえずヨダレ拭きなよ!」
カリンがゼンジに手拭きをくれる。
「幻覚魔法は使ってないわよ?」
その横で腕を組んだリンカはアゴを持ち上げていう。
「いい歳こいたアナタが発狂するほどに素晴らしい音楽体験を提供する魔導ギア。
それが“ミュージック・ディスク”――。
魔導ギアショップゲンゾーリュウの新製品よ」
「ミュージック、ディスク⋯⋯!」
ゼンジは手渡された黒い円盤を顔より高く持ち上げて眺め見る。
真ん中にドーナツのような穴があいた円盤の中心から、外側に向かっていくつものミゾが円を描くように、螺旋状に掘られている。
「ドーナツ盤、といってもいいわ。 その黒魔晶に波形を刻んだミゾを針が通ると、振動が起こるの。その振動を風魔法で増幅させて、外に出力しているのよ」
「⋯⋯疑って悪いが、ほんとうに幻覚魔法のたぐいは使われてないのか?」
「ないわね、魅了のそれもね。 だって必要ないもの。
うちの専属魔導エンジニアたちが、そのためだけに設計した風の魔法陣と、超高濃度な魔力を含む黒魔晶、それに、ミゾのカッティングに使用されるハイグレードな魔導ギア。
そして最高の音楽。
ぶっ飛ばないわけがないじゃない」
「なるほど」
(確かに、最高だった。)
全身で感じた音の洪水もそうだが、音楽自体がまた最高だったのだ。地を這うような低い音から、天上の喜びに導くようなラッパの音まで――。
(ピリリカさんのぎゅいいいいんって感じの音楽とはまた違った、なんとゆうか⋯⋯そうだ、はじめて風呂に入ったときのような、全身が溶けゆくような音楽だった)
「買う?」リンカがカウンターに手をついて、頬を吊り上げる。答えはもう、知っているようだ。
「買います」
「三十万ゼニーよ」「ギルド行って来ます――ッ!」
聖剣を捨てたバンダナ隠しの英雄、コーヒーを飲み干すと、最高の音楽体験を手にするため、再びギルドに足を踏み入れる。




