5話
「録音用の魔導ギアはうちのショップにはないわね」
「そっかあ⋯⋯」しょんぼりするゼンジ。
「取り寄せはできるけど」
「ほんとうに!?」目を輝かせるゼンジ。
軽い自己紹介をすませ、二口目のコーヒーを口にした直後のこと。上げては落ち、落とされては上げられ、ゼンジの情緒は不安定さを増していた。
「おねーちゃんとこはメイクスの中でも大きめだから、だいたいは手に入るんじゃないかな?」
「まあそうね、ボスやわたしと馬の合わないところの商品は扱わないけど」
「ボス?」カップをゆらしてみながら、ゼンジは聞いた。
「おねーちゃんがお店を任された【魔導ギアショップ・ゲンゾーリュウ】の社長さんだよ! メイクスにある本店のオーナーもしてるの!」
「赤ふんどしのゲンゾール⋯⋯その道じゃ知られた人物よ」
「それはまた」珍妙な異名で、といいかけたところで、(失礼だな)ゼンジは口を閉ざしたのだが。
(珍妙な異名⋯⋯? なんというか、舌の滑りがよさそうだな。語感がいいというか)
カップを置いて、ポケットから用紙とペンをひっぱりだしてその五文字をメモに残す。
歌詞に使えるかはわからないが、何かのヒントになるかも知れない。ゼンジはそう考えた。
「なにしてるの? おにーさん作家さん?」
カリンがのぞきこんでくる。
「歌を作りたいんだ。 そのために、言葉を集めている」
「へーーー! あっそれで録音の!」
「ゼンジさんだったかしら? あなた、音楽が好きなの?」
「ああ。 とても好きだ。 一曲しか、まだちゃんと聞いたことはないんだが」
「へえ」リンカの仏頂面に、はじめて笑みが浮かぶ。
「いいものあるわよ」
それは、ご禁制の薬を扱うディーラーを思わすような、いかがわしくも魅力的な表情だった。
「ください」
ゼンジは前のめりに立ち上がった。音楽に関わるいいもの、さらには一流魔導ギアショップのオーナーオススメの品なら、いいものに決まってる。
「お金がかかるわよ?」
「どうにかなると思う」
必要に応じて魔王を狩ればいいし、嘘ではない。
「いいわ、目を閉じて」
「は、はい」
ゼンジはドキドキした。リンカがその矯正な顔をカウンター越しに近づけてきたからではない。目を閉じ切る寸前、その背後で にひっと悪巧みするような表情をしたカリンが、黒い円盤のような物をハコから取り出すのが見えたからだ。
――ミュージックボックス、ではない。
めちゃくちゃ、わくわくする⋯⋯!
リンカがパチンっと指を鳴らした。
「ミュージック⋯⋯スタートよ」
「はっ、はっ、はっはっは!」
そのとき、音の洪水がゼンジを飲み込んで大海に引きずり込んだ。それからしばらくのあいだ、ゼンジが息をすることはなかった。




