4話
(やはり罠だったか――)
いつもの癖で背中に手を伸ばすも、その手は空を掴む。聖剣は昨夜、川に投げ込んだばかりではないか。
ゼンジは動揺を悟られないように首をかきながらも、肉体にうっすら魔力を纏う。
警戒すべきは、カウンターの向こう側に立つ、カリンに瓜二つの女性と、「どしたの?」しらじらしくも、横からのぞきこんでくるカリン自身だ。
「魔導ギアショップはカモフラージュ⋯⋯キサマら、どこの魔王の手先だ」
ゼンジは両手の平に魔法球を展開した。
「ええっ!? ほんとにどしたのよ?」
「一般社会にうとい俺だが、モンスターに騙されるほどバカじゃないもんでな⋯⋯人に擬態するモンスター“マネッコ”、それがキサマらの正体だッ」
「ふえっ?」「⋯⋯」
硬直するカリンと、カウンターの向こう側で本を閉じるカリンそっくりな女性――いな、手先どもめ――ッ。
「魔法加工技術を用いてモンスターの能力を再現する研究が行われていることは知っている、以前メイクスにて俺はその研究に手を貸したからな。 しかし、それは現在の技術では不可能だとも知っている。
モンスターや魔王、そして俺の持つ力は、普通人のそれとは理が異なる⋯⋯種族や固体に依存する特殊能力のようなものだとジジイどもが嘆いていたのだから!」
「へーーー! おにーさん物知りなんだ! とりあえず座って座って!」
「⋯⋯何?」あっけらかんと横を離れたカリンに、警戒心を高めるゼンジ。深まる眉間のシワ。
その視界で、横並びになる二つの顔。
「こっちは双子のおねーちゃんでリンカねっ! おねーちゃん、変なお客さんだけどお客さんはお客さんだから! わたしの勝ちねっ!」
「双子?」眉がぴくんと跳ねるゼンジ。
「不審人物をお店に迎え入れるのは感心しないわね」カリンにそっぽむくリンカ。
「双子? ああ、そうか、そーゆうのもあるのか。 双子のおねーさんでしたかっ」
平常心ではなかったゆえに忘れていたが、当然ゼンジも双子くらいは知っている。そして恥ずかしいときは穴に入るとの知識も持ち合わせていたが、肝心な穴がどこにもなかったため、カウンターの前のイスにちょこんっと座る。
「⋯⋯⋯賭けとはいったい?」必死に転換するための話題を模索した結果、ゼンジは問うた。
「あの向かいの魔導ギアショップね、おねーちゃんがオーナーなのよ!」
「ほう」
「それでねっ、あの繁盛ぷりでしょう? 誰もわたしのお店になんて目もくれないから、お昼までにお客さんが来るか賭けてたんだよっ」
「妹が勝てば新作の豆引き魔導ギアをプレゼント、わたしが勝てば一年間飲み放題だったのよ」
「まっ、おねーちゃんからお金もらったことないけどねっ!」
ようは、暇つぶしに付き合わされたわけだ⋯⋯。ゼンジは(俺は何を身構えてたんだろうか)と、いっそのこと穴を自ら作り出そうかと思ったが、店に迷惑かかるからやめた。
「はいどうぞっ」うつむいたとき、視界にコーヒーが入ったカップと、それを乗せた白い丸皿がすっと入ってきた。
「⋯⋯いただきます」
一口含んだそれは、もどかしくて甘酸っぱくも「⋯⋯美味かったのか、コーヒーとはこんな味だったんだ」




