13話
「あら、ずいぶん若返ったじゃない。 それならギリギリ二十代でも通用するわよ」
「うんまあ、一週間前まではそうだったからな」
教会の魔法で出生日を調べたからきっとそうなのだろう、と姿見鏡を見ながら思うゼンジ。
(――ん? それなら俺は老け顔なのか?)
「苦労してきたんだね〜〜」
何気ないカリンの声が、その事実を決定づけた。
「⋯⋯それでリンカ、その大きなキャリーケースはなんだ。 しかも二個も」
ゼンジはちょっとだけショックを受けていた。
「服とアクセサリーよ。 知り合いの店を片っ端から回って借りてきたの。 お気に召したなら、買い取れるわよ」
「それはありがたいが、その。 多すぎない?」
「人形遊びは服が多いほど楽しめるのよ」
リンカは欲望に正直だ、参考になる、とゼンジはうなずくと。
「見せてもらってもいいか? 服をまじまじと見るのは初めてで、とても楽しみになってきた」
「いいわね、そのいきよ。 わたしも意志を持つ着せ替え人形は妹以来で盛り上がってきたわ」
リンカは怪しげな笑みを浮かべながら、カリンの座るソファーの前のテーブルに、アクセサリーを並べる。
それから、この字形に置かれたもうひとつのソファーに服を並べていく。
その後ろにあるイスが四つ置かれた食卓を見てふっと笑ったあと、ゼンジは姿見鏡から離れてソファーと向き合う。
「これとか、どうだろうか?」
最初に手にとったのは、短パンとフード付きパーカーだった。
「それじゃ今とほとんど変わらないじゃないの」
「黒が赤になっただけ勇気をだしたとは思うっ!」
双子の姉妹的に、これはなしらしい――。
「わからん。 服、わからんぞ⋯⋯ッ」
「あーもうじれったいわね、わたしに任せなさい」
ゼンジが立ち往生したとき、魔の手を伸ばすは人形使いリンカ――。
「派手にいくわよド派手に、まずはその殻を打ち破るのよ。
そうね、ゼンジさんは肩幅が広くて引き締まってるから、タイトな感じも⋯⋯いえ、ここはあえて大きめに着こなしてみましょう」
「は、はい⋯⋯!」
ゼンジは嬉しかった。美女に半裸の肉体をじっくりと見られたことではなく、その真剣な目がゼンジ自身を見てくれていることが。
「おねーちゃんこれよくない? 最近出始めた新作だしっ」
カリンがビリビリに破けたジーンズを手に取った。ゼンジとしては、それの前の所有者が事故にでもあったのではないかと気が気でないのだが。
「ダメージ系はあまり、ゼンジさんに着て欲しくはないわね」
淡々といって服を次から次へと広げて見ては、眉をひそめるリンカ。
「こんなのはどうかしら?」
「あっいいねえ! それ、絶対似合うと思うっ」
「⋯⋯それを着るのか、俺が?」
「いやなら強要はしないわ」「だけど似合うとは思うっ」
「⋯⋯貸してくれ」
にっこりとした双子から、ゼンジはその上下服を受け取った。
「悪くないな⋯⋯いやいい気がしてきた⋯⋯むしろ似合ってるんじゃないか⋯⋯!
どう――?」
「「完璧っ!(完璧ねっ)」」
姿見鏡の前に立ったゼンジがドキドキしながらふりむいたとき、ソファーに横並びで正座して後ろを向いていた姉妹が、ふりむきながら親指を出した。
「激悪ッ!」「チンピラそのものよ」
「「怖っ」」
「待て待て待て待て褒められてるのかそれは――!?」
「もちろんだよっ」「もちろんそうよ」
ゼンジ、言葉というものは難しい、と齢三十にして考えを改める。
「そうか、褒められているのか⋯⋯そうか。 似合ってるんだ」
「うわあ、嬉しそーーー」
「これも似合うと思うわよ」
リンカが、大きなメダルのような装飾がついた極太の金ネックレスをジャラリと持ち上げる。
「それは好みじゃないな」
「あらそう。 それじゃこれはなしね」
だが、その横にひっそりと置かれる線のように細い金ネックレスにゼンジは妙に惹かれた。
一風変わった、少し厚みのある木札のような装飾。
消しゴムサイズで、大きなわけじゃないし派手さもないのに、それがかえって目を引く。
思わず手にとってみると、文字が彫られている。
「“栄光に近道な”⋯⋯?」
最後の一文字、“し”の部分だけ木が剥がれているが、その白くなった跡を見る限り、きっと“栄光に近道なし”と彫られていたのだろう。
「気に入った?」リンカがくすっと笑った。
「それはサンプル、というか不良品ね。 展示中に壊れちゃったから、購入するなら作り直すといってたわ」
「いや、これがいい。 俺、これが欲しい」
壊れているのは、自分も同じだ、だけどそうじゃなくて――
「“栄光に、近道な⋯⋯ッ!”なんか、めっちゃポジティブじゃないか――ッ!」
「あはは〜〜はやく行ってこい!みたいな?」
「いいじゃない。 あなたがいいなら、それでいいと思うわよ」
「ありがとう!」
気に入った。ものすごく、気に入った。鏡にうつる自分が、なぜか誇らしく見えた。
リンカとカリンがすすめてくれた千切れた鎖が全面にジャラジャラと伸びる模様のセットアップが、この木札のネックレスが、ゼンジはたまらなく気に入った。
「おにーさん、よだれよだれっ」口がバカになるほどにテンションが跳ね上がった⋯⋯!
「B-BOY、ね」
「えっ?」
「その服、背中に大きくBと描かれているの見えるかしら? 少年のような顔してるのみたら、その言葉が思い浮かんだわ」
B-BOYゼンジ⋯⋯!
「いいな、すごくいい。 理由は知らんが、腹の底から力が湧いてくるようだ!」
「よかったねおにーさん!」
人形使いの悪魔が再びどうしようもない現実を叩きつけてきたのは、ゼンジが購入を決意した時だ。
「それじゃ上下セットにネックレスで十九万八千ゼニーね」
「⋯⋯⋯⋯⋯! ギルド行ってきま――」
「待ちなさい、冗談よ。 わたしが払っておくわ。 あのバンダナ隠しの英雄に恩を売れるチャンスだもの」




