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9:ヒーローの裏

「じゃ、俺帰るから」


 警察が来る前にさっさと支度を済ませ、石川さんの方を見る。


「うん。気を付けてね。それから……。話してくれてありがとう」


 着ていた上着を羽織り、バッグを肩に掛け店を出る。醤油は無事だった奴を石川さんが替えてくれた。


「おうよ」


 軽く右手を挙げて帰路に就く。


「ただいま……」


 京香の部屋のドアを開けると玄関で京香が待ち構えていた。


「おかえり健太君。ふふっ。やっぱ使っちゃったんだ……」


 俺の体を見るなり京香は笑みをこぼす。


「運転手が動いていなかったからね」


 京香にバッグを渡し、家に上がる。


「吐くの見られた?」

「いや、コンビニのトイレで吐いたよ」

「そっか、良かった。他の人には見られなかったんだね」


 廊下を歩きながら軽く会話を交わす。


「正直、京香さん以外には見られたくないよ」

「うふふ。嬉しいわ……お醤油ありがと。すぐにご飯作るね。皮膚は机の上にあるから」


 リビングに入り、机を指差しながらキッチンに向かう京香。

 料理の匂いを感じながら人工皮膚を着る。


「警察とかには見られなかった?」

「うん。警察には会ってないから大丈夫だけど、一人見た人が居る」


 お互い手を動かしながら話す。


「石川さん?」

「え? なんで知ってるの」

「だってそこのコンビニで働いてるの知ってるもん。そうかなーって」

「なるほどね」

「でもお店には監視カメラもあるし、多分見つかっちゃうけどね」

「あ、そっか……」


 完全に見落としていた。警察は俺が写ってしまっている監視カメラを確認するだろう。


「やっちゃったなこれは……」

「良いんじゃない? 今日から健太君はヒーローなんだし」

「ヒーローね……」


 石川さんの声を思い出す。悪くない響きだ。


「これから人の為に動く無認可オートマタとして生きていけばいいんだよ」

「簡単に言うなぁ……」


 思わず苦笑いが零れる。


「さ、ご飯出来たよ」

「はーい、ありがとう」


 こちらも丁度皮膚を着終わった。料理が並ぶテーブルに腰かける。


「いただきます」

「はい、召し上がれ」


 京香が作っていたのは肉じゃが。じゃがいもは中まで出汁が染みて、肉は唇でも切れる程ホロホロになっている。


「ウマっ!」

「ほんと! 良かった」


 向かい合う京香が微笑む。


「ねぇ、もし健太君が人の為に動いてヒーローになったらさ」


 少し食べ進んだところで京香が口を開く。


「うん」

「周りの人はなんて思うだろうね」

「どういう事?」

「事件を解決するみんなのヒーロー健太君がさ」

「うん」

「家に帰ったら女の子の前で喜んで嘔吐しちゃう変態だって知ったらどう思うのかなって」


 やけにねっとりとした俺の心を優しく撫でるような声で言う京香。

 その声に反応するようにブルッと体が震える。


「あ~。想像して喜んだ……」

「それは……」

「この後もご飯吐こうね」

「うん……」


 弱く頷き、京香のご飯を口に運ぶ。この後トイレに吐き出されるのに。


「ごちそうさまでした」

「美味しかった?」

「うん。美味しかった。ありがとう」

「食器洗ってるからこの後ね」


 頷いてソファに座る。そういえばマリーの事を聞いていなかった。


「そういえばなんだけど……」

「どしたの?」


 食器を洗う京香の方を向く。


「さっき、バッグにマリーが入ってたんだけど大丈夫だった?」

「マリーは大丈夫だったよ。健太君が寂しくない様にバッグに入れちゃった」

「そういう事か。夜道で見つけてびっくりしたよ」

「ふふ。ごめんね。寂しく無いようにって思ったけど私の方が寂しくなったみたい」


 恥ずかしそうに言う京香を素直に可愛いと思う。

 さっきまで艶めかしく俺を責めていた京香が今は顔を赤くしている。その光景だけで俺はそれ以上の言及を辞めた。


「そろそろかな」


 壁に掛けた時計を見ながら京香が呟く。


「うん、だんだん苦しくなって来た、かな」


 その会話だけで俺と京香はトイレへと向かっていく。


「はぁ……はぁ……」


 いつものように便器に手を突き、顔を突っ込む。

 京香が俺の背中を優しくなでる。もう一人で吐くなんて考えられなくなるほど京香に嘔吐を見られることを受け入れている。


「いつでも出していいからね……」

「かはっ……あっぁぁ……」


 唾液が口から溢れ出し、下唇から垂れる。

 胃の奥から酸っぱい匂いがこみ上げてくる。

 体がビクンと跳ね、小さい嗚咽を出す。


「やばっ……もう、出る」

「いいよ。出してっ!」


 吐瀉物がもうそこまで来ていた瞬間、京香が手を喉の奥に突っ込んできた。


「うごぇえ⁉」


 一瞬何が起きたのか理解できず喉の奥に感じた異物感に俺の胃袋は一気に内容物を噴き出した。 


「くぁ……おぇ!」


 驚く暇もなく、一気に胃袋の中身が出てくる。


「おぉぉぉぇぇぇぇぇ……! かはっ!」


 口の中にまだ突っ込んだままの京香の手に吐き出される嘔吐物が手にかかる。

 それを気にすることなく、京香は喉の奥で指を動かす。


「おごっ! ごぇぇ……っ」

「喉の奥、くちゅくちゅされるの気持ちいい? あはっ、また出てきた……。吐くの止まらないね? もっと出して?」


 京香の指の動きに合わせてまだまだ吐瀉物があふれ出てくる。あっという間に京香の綺麗な手はドロドロになってしまった。


「可愛い……。顔そらせちゃダメ。私に見せて」


 嘔吐が止まり、京香の手から逃げるように首を動かすが無理やり口に突っ込んだままの手で頭を動かされてしまう。

 俺のゲロにまみれた手と俺の顔を交互に愛おしそうに見た後、手を引き抜いた京香は甘ったるい、消耗した俺の思考力を根こそぎ奪うような声で


「健太君……。石川さんにもこうやられたい?」


 そう問うた。


「おえっ……。はぁ……はぁ……。どういう、こと?」

「だから、石川さんにこんな事されても健太君は喜んじゃう?」


 俺の唾液と嘔吐物でテラテラと光る手を俺に見せつける。

 細い指に絡みついた透明な液体が肘を伝ってねっとりと床に垂れる。

 やってはいけないことをしてしまった気がして、目の前の光景が見てはいけない物な気がして目をそらす。


「そんな事は、ないよ。さっきも言ったけど……。京香さん以外には見られたくない……かな」

「そっかぁ……。私だけにされて喜んじゃうんだね? 私の手、こんなにしちゃったのに……」

「そんなことは……」

「あるでしょ?」


 挑発する様に粘着質な声を出しながら口角を歪める京香。

 押し付ける様に顔を近づける京香の圧に頷くことしかできない。

 さすがに口に出すのは恥ずかしい。


「うふふ……可愛い……」

「なんで、こんな事聞くの」


 息を整えながら京香に問う。


「大切な事だよ?」

「そんなに?」

「うん。これから健太君はシードを飲んで皆のヒーローになるんでしょ? だったら吐く時は私のところに帰って来ないとね」

「……」


 誰かを助けた後、大勢の前で吐く。そんなことは避けたい。嘔吐は人目につかない所で吐くからいいのであって、人前で吐いたらそれはただの露出狂と変わらない。


「みんなの前で吐く所想像しちゃった? 変態さん」


 何も言えすに黙る俺を見ながら京香が立ち上がる。

 傍の洗面台で手を洗い始める京香。

 次第に綺麗になってゆく白い手に釘付けになってしまう。

 さっきまでこの柔肌に俺のゲロが……。

 余計な想像とさっきまでの京香の蠱惑的な表情を思い出してしまう。


「さぁ、スッキリしたし、今日はもう寝よ?」

「うん……」

「ふふ。そんな切ない顔しないのよ。まだやってあげるから」


 こうして俺が始めて人助けした日も京香と嘔吐に染められて終わった。

第9話お疲れさまでした!


面白かったらいいねと評価、ぽちっとお願いします!


感想なんかを頂けるとモチベーション爆上がりでございます。ので何卒。

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