009 推しの健康不安
未来ちゃんの家はオシャレな匂いがした。未来ちゃんの粒子がいっぱい飛んでいる気がするから肺に送り込んでおこう。
「文ちゃん? あ、もしかして臭かったかな……」
「いやいやいやいや! そんなことないです!」
「そ、そっか。ならよかったけど……」
推しにいらぬ心配をかけてしまった。未来ちゃんから生み出された物質が臭いわけがない。そこは自信を持って欲しいね。
それにしても未来ちゃんの家、広いのに生活感ある場所が少ないなぁ。引っ越してきてすぐだからかな?
「未来ちゃんの家って物が少ないんだね」
「そんなことないよ? 家が広すぎるからそう思うんじゃないかな。一人暮らしでこれは広すぎるよね」
「あぁ1人だとね……って一人暮らしぃ!?」
「あれ? 言ってなかったっけ」
こんな広い部屋で一人暮らし!? 何がバグってるの? 私か? 私がバグってるのか?
「パパもママも過剰だよねー。そりゃ心配なのはわかるけど、ここまでセキュリティガチガチなところに入れなくてもいいのにさー」
未来ちゃんは両親のことをパパママと呼ぶ。メモしておこう。
ご両親の気持ちもわかるよ。こんな可愛い娘がいたらそりゃ厳重なセキュリティのある家に済ませたくなるって。
っとそうだ、手土産を早く渡さないと。
「あ、そういえばこれよかったら食べて」
「いいの? ありがとー!」
未来ちゃんは快く手土産を受け取ってくれた。心配事は杞憂だったみたい。
未来ちゃんは天使だもん、手土産に嫌なこと言う子じゃないのは私がよく理解しているはずだったのに。
「いやー、食べるものに困ってたから助かる〜」
「た、食べるものに困ってた?」
「うん。私って料理できないからウー○ーイーツを取るしかなくて……」
「ま、毎日ウー○ーなの!?」
「声優の先輩がご飯に連れて行ってくれる時以外はそうだよ」
「わお……」
推しの健康状態が一気に不安になったんだけど。
ちなみに先輩の声優にご飯に連れて行ってもらってることは把握している。SNSによくアップしているしね。女性声優で安心安心。ファンも暴れないし。
でもご飯に行くといっても外食だし、ウー○ーイーツももちろん外食。このままじゃ未来ちゃんは体調を崩してしまうかもしれない。オタクとして、それを見逃すわけにはいかない!
「未来ちゃん、もし今日時間が余ったらお料理しようね」
「え……えぇ!?」
あくまで今日は未来ちゃんの演技練習に来たわけだけど、時間が余れば何をしたっていいはずだよ。それこそ自炊を少しくらい覚えてもらうのはいいことだしね。
「大丈夫、未来ちゃんならすぐお料理上手になれるよ」
「そ、そうかな……」
未来ちゃんのことは私が一番信じている。だから自信持って欲しい。
料理が嫌いなのか、未来ちゃんは慌てて話題を変えようとした。
「と、とにかく部屋に行こっか。あ、ここからのことはSNSなんかに書いちゃダメだからね」
「も、もちろん」
守秘義務は守る。オタクとして当然のことだ。
私は覚悟を持って未来ちゃんの部屋に入り……襲ってきた甘い香りの爆弾で後ろから倒れた。
「ふ、文ちゃーーーん!?」