008 推しの家に行く
土曜日というものは多くの学生にとって安息の日となる。次の日も休みという優越感からか、ついついリラックスしすぎてしまうこともある。
しかし、私にとってこの土曜日だけは話が違った。
そう、何と推しの星ヶ丘未来ちゃんの家にお呼ばれしちゃったのである。
「ひぇぇ……」
未来ちゃんからL○NEにメッセージが送られてきたのが昨日の夜。そこには未来ちゃんの住所が記されていた。
そもそも推しからメッセージが来ること自体ヤバいことなんだけど、さらに次の日には家に行くことになるんだから洒落にならない。
こんなことならもっとオシャレな服を買っておくべきだった。悩みに悩んだ挙句、結局この前の握手会と同じ服装になっちゃったし。あとあんまり寝てないんだけどクマとか大丈夫かな。
灰色のキャスケット帽子を少しいじって、未来ちゃんに教えてもらった住所にたどり着いた。
ま、摩天楼!?
そう思うほどに高いマンションだった。いわゆるタワマンってやつ?
口を開けて仰天している間に、私のスマホがブルブルと震えた。わ、私のスマホに電話? 非通知の迷惑電話くらいしかこないけど……って未来ちゃんのアカウントからだ!
「も、もしもし?」
『もしもしおはよー! 文ちゃん今どこ?』
「あえっと……一応教えてもらった住所までは来たんだけど……」
『本当? じゃあその建物の7階だから』
「あ、はい……」
そう言って電話が切れてしまった。
タワマンの7階……いわゆる超セレブってわけではないけど、それでもいいところに住んでいることに変わりはない。
セキュリティは万全で、なんと言うかわからないけどここで7階の未来ちゃんを呼べばいいみたいだね。
恐る恐るの指使いで未来ちゃんを呼ぶボタンを押すと、すぐに未来ちゃんから反応があった。
『文ちゃんいらっしゃい! すぐに開けるね』
「ど、どうも」
厳重なセキュリティだ、セレブたちはこういうところに住んでいるのか。
っていうか機械から流れてくる未来ちゃんの声、良っ! お金取れるでしょこれ。
自動でドアが開いて、エレベーターに乗ると7階しか選択できなかった。
その7階が開くと、ついに未来ちゃんの家にご対面である。
このドアの奥に、未来ちゃんが……!
「やっほー☆ 文ちゃんいらっしゃい!」
「ひえっ!?」
心の準備を整えているうちに未来ちゃんが先に開けてしまった。し、心臓に悪い……。
っていうか未来ちゃん、私服だ!!
もちろんSNSで未来ちゃんを追っているので私服姿は見たことあるけど、ここまで気の抜けた未来ちゃんの服を見るのは初めてだ。だってロンT1枚だし。
「あはは、文ちゃん固まってる〜」
「はっ! ご、ごめんなさい」
「いいっていいって。じゃあ上がってよ」
「は、はい。失礼します……」
そうか……ついに未来ちゃんの家へ上がるのか。
手土産、お煎餅でよかったかなぁ。もっと高いもの買うべきだったかも。失敗したぁ……。