051 推しとの青い春
インフルエンザに罹り、5日目。
いっっちばん暇。熱も下がったから元気なんだけど、外には出られない。
こんな時は執筆しかないんだろうけど、落選直後だしあまり気分は乗らない。
1人寂しくアニメを観ていると、インターホンが鳴った。誰だろ。営業マンかな。
「はーい」
『あっ、文ちゃん? 大丈夫?』
「み、未来ちゃん!?」
モニターに映ったのは推しだった。
そっか、未来ちゃんは私より2日早く発症したから、私より早く自宅待機が終わったんだ。
「どうして家に!?」
『もちろん文ちゃんのお見舞いだよ』
「お見舞いって……私インフルエンザだよ?」
『大丈夫だよ。私だってつい最近罹ったんだし」
まぁ……確かに。直近で移るってあんまり聞いたことないかも。
「じゃあ……どうぞ」
「お邪魔しまーす!」
推しがまた家にやってきた。何だこれは……天国か?
「大丈夫? 辛くない?」
「全然。熱も引いたし、未来ちゃんほど酷くなかったしね」
「そっか〜」
……
………
しばし、無言になる。その無言を破ったのは未来ちゃんだった。
「文ちゃんごめんね。せっかくのデートを台無しにしちゃって」
「そんな! 未来ちゃんが謝ることじゃないよ。私がもっと早く気がつくべきだったんだ」
「文ちゃんならそう言うと思ってた」
「え?」
「文ちゃんは全部、私中心に考えているもんね」
「ま、まぁオタクですし」
「でも文ちゃんはもっと文ちゃんのために頑張るべきだと思うし、自分に甘くなっていいと思う!」
「え、え?」
何だろうこの話。どこに向かっているんだろう。
未来ちゃんがすぐにこの話題に切り替えたということは、これが一番話したかったからここに来たってことだよね?
「つまりね、もう私のことばっかり考えるのはやめて、文ちゃんは文ちゃんの人生を……」
「嫌だ」
「え、えっ!? 即答!?」
「嫌だよ。私の人生は未来ちゃん……貴女だから!」
断言する。
私の人生、未来ちゃんがいなかったら虚無で空っぽな、つまらない人生だったと思う。
こうして東山文が東山文であるのは未来ちゃんがいるからだ。転校してきても画面の向こうでもそれは同じ。
未来ちゃんは、私を東山文として確立する最重要ピースなんだから!
「……驚いちまった。正直言ってそんな断言されると思ってなかったし」
「断言できるよ。未来ちゃんのことならね」
「ねぇ文ちゃん、『私の人生は未来ちゃんだから』って、何か愛の告白みたいじゃない?」
「あ……いや揶揄わないでよ……」
「ううん。揶揄いじゃないよ。だって……私の人生は、東山文だから」
「え……」
「それだけ、あの日のデートで言い残していたんだよね」
「え、ちょっと待って。どういう意味!?」
「じゃあ帰るね、お大事に」
「ちょっと未来ちゃん!? 顔赤いよ!?」
未来ちゃんは帰ってしまった。
言い残したこと……つまりこれを言うためにデートしたってこと?
それはつまり……おぉ?
なんか、春が近いなぁ。って思う。
次回、最終回です!




