043 推し、イジられる
私のドキドキなんて知る由もないキャストのみなさんは指定されていた席に座り、トークショーの準備が整った。
未来ちゃんは田原家4姉妹の末っ子だから、1番端っこに座っている。でも1番存在感を放っているのも未来ちゃんだ。
トークショーではアニメの感想やキャストの最近のことなど、みんなで盛り上がった話を共有している。
動画サイトでラジオが配信されているけど、まるでそれをそのままステージに持ってきたみたいだ。
『クリスマスでしょ? アタシだってこの会場に彼氏いるかもじゃん?』
『ないないないない、アンタに限ってそれはない笑』
『酷くない!?』
30歳を超えた声優さんはある意味無敵というか、こういうギャグを言っても泡吹いて倒れるファンが減っているから武器が増えているね。
未来ちゃんが同じネタを言ったらたぶん炎上するし、勝手な憶測を呼ぶと思う。
『この中で大切な人を呼んだのはね……末っ子よ』
「「「えええーーー!!!」」」
未来ちゃんに話が振られ、しかも匂わせるような先輩からのパスに会場がどよめいた。
やっぱり10代20代の声優さんにこういうネタは禁物だ。
「あわわわ、未来にそんな人が!?」
「落ち着いてお父さん。あの子ももう高校生なんだから……」
1番泡を吹いているのはお父さまかもしれない。
『どうなの? 星ヶ丘さん』
『もちろん大切な人は呼んでいますよ! お父さんにお母さん……それから、私のことを誰よりも好きでいてくれている人です』
未来ちゃんの断言に、会場は多いなどよめきとたまに悲鳴が聞こえてきた。クリスマスにこの匂わせはクリティカルだろう。
『えらい自信だねぇ。でもあらぬ勘違いを生んでるけど』
『勘違い?』
『たぶんここにいる星ヶ丘以外、全員男の気配を感じているぞ』
小さい笑いがポツポツと起こった。未来ちゃんがそっち方面には天然だから、可愛い〜という笑いだろう。
『違いますよ〜、私の大切な人は女の子で、クラスメイトです!』
『だってよみんな! つまらねぇな! 本場の色恋聞きたかったのに!』
さすが先輩声優さんだ。イジりで終わらず、しっかりと疑惑は晴らしてからの自虐で笑いをとっている。
話は次に進もうとした時、未来ちゃんはこっそり目線をこっちにくれた。
ステージにいる推しと、再び目が合った。そして……
ぱちっ
と可愛く小さくウィンクを送ってくれた。
あかん……惚れてまうやろ!
こうしてドキドキと感動と笑いをもたらしてくれたクリスマスのトークショーは幕を下ろした。
このドキドキ……絶対に握手会の時とは違う。
うぅ……考えても仕方ないや。自分の作品の参考にするため、とりあえず今日のトークショーの進行や面白かったところを忘れないうちにメモしておこう。
耳まで熱いけど、これはきっと寒さからくる痺れだ。
 




