042 推し、登場
『みなさんお待たせしました〜! そしてメリークリスマス! 田原家4姉妹の日常〜スペシャルクリスマストークショー〜 開演しまーす!』
パチパチパチと、会場は約1700人の大拍手に包まれた。このプラチナチケットの当選者はみんなキャストもしくはアイドルのファン。ただ見ているだけの地蔵なんて1人もいない。
「あら? 未来はまだかしら?」
「この後じゃないかな?」
……隣にいるこの2人を除いて。マイペースだなぁ。
ってかよく見たら自作であろう未来ちゃんの顔が大きくプリントされたパーカー着てるし! 本人が見たら恥ずかしさで死んじゃわないかな……。
『ありがとうございます! わたくしこのトークショーの司会進行を務めさせていただきます ヒルガ藤 です、今日はよろしくお願いします!』
ヒルガ藤! 名前は聞いたことあるほどに有名であろうオタクコンテンツの司会者だ。黄色いスーツにグラサンなんてファンキーな見た目のおじさんとは思わなかったけど。
『それでは早速このお二人に登場していただきましょう! アニメ田原家4姉妹の日常のオープニングテーマ【4部音符の日常】を歌われたfelizさんでーす!』
パァン! とクラッカーの音が鳴ったような演出の後に、opのイントロが流れてfelizの2人が登壇した。
歌も、踊りも、楽器の音も。すべて家でイヤホン越しに聴くのとは違う。
ドラムの音に心臓が跳ねる。2人の声に脳が弾む。これが……生のショー!
『ありがとうございましたぁ! felizのお二人でした〜!』
会場の掴みは完ぺきで、クリスマスに何でアニメのイベントに来ているんだろう……という悲壮感は1ミリも残っていない。
ここにあるのはもう、作品への感謝と続くキャスト登場への期待だけだ!
「未来遅いわねぇ」
「んん……未来も歌えばよかったのにね」
この2人は本当にマイペースだ。未来ちゃんには遺伝しなかったのか、はたまた本来はマイペースなのか……考えるのはよそう。
それにしても未来ちゃんの歌かぁ。2曲出してて鬼リピしているけど、あんまり歌わないよねぇ。得意じゃないのかな?
『みなさん、お待たせいたしました……それではトークショーのメイン! 声優キャスト陣に登壇していただきましょう! どうぞぉ〜〜〜!!』
明るい呼び出しに応じるように、先ほど入場口で見た声優さんたちが舞台に登壇した。
すっぴんでも綺麗だけど、メイクをするとより映える。衣装もキラキラしていて美しい……。
そんな中、最後に登場したオレンジ色寄りの金髪の少女に視線が釘付けになった。
その子は普段は隣の席に座っていて、明るく、元気で、ちょっぴりおバカさんで、なんか嫉妬深いけど……私の大好きな、大好きな、推しだ。
「未来ちゃーーん!」
自然と出てしまったその声に、未来ちゃんは聞き逃さないでこちらを向き、ニコッと笑ってくれた。
「ねぇお父さん! いま未来が! 未来が笑ったわよ!」
「くそー! ビデオを持ってこればよかった! って撮影禁止か」
…………なんでだろう、私……
どうして、こんな
なんで……えっ?
どうしてこんなに、ドキドキしているの?




