004 推しに褒め殺される
未来ちゃんが見せてくれたスマートフォンの画面に映る『花森学園:高等部』。
何を隠そう、これは私が書いたWeb小説なんです。
簡単に説明すると百合学園小説で、登場人物にこだわった作品だ。30人くらいにブックマークされている不人気とも人気とも言い難い微妙なポジションにいる。
その30人のうちの一人が、未来ちゃんだっただなんて!
さてここで選択肢が発生する。
私がその作品の作者であると言うか、言わないか。
私の答えはすぐ決まった。言わない。なぜなら……
「そ、その小説のどんなところが好きなの?」
「登場人物が可愛くてね、それからかけ合いも楽しいんだ!」
こうやって未来ちゃんに褒めちぎってもらえるから!
すまないね全国の未来ちゃん推しの同志たちよ。私は一人、抜け駆けして未来ちゃんに褒められまくるよ。
「へ、へー。ワタシモヨンデミヨウカナー」
「なんで棒読み? 面白いね」
未来ちゃんはすぐに笑ってくれる。こんなに一緒にいて気持ちいい子だと、さぞモテるんだろうなぁ。
褒められるのは嬉しいけど、このままだと褒め殺されてしまうので話題を変えることにした。
「み、未来ちゃんってやっぱりモテるの?」
「え?」
「あ、いや! き、気になっちゃった言いますかその……」
「あー。まぁ何度か告白されたことは」
や、やっぱりあるんだ!
「でも付き合ったことはない☆。声優業に本気を出したいし、それに……」
その言葉に続ける言葉は発せられず、私をまっすぐ見て固まる未来ちゃん。
「そ、それに?」
「んーん。なんでもない! それよりもっとライトノベルの話しようよ! 花森学園はね、主人公の明菜ちゃんが可愛くて……」
軌道修正してきた!
っていうか知ってる!! だって作者私だもん!
こんなに人に褒められること、初めて!
Web小説家やってて一番の瞬間だよ。っていうかこれを超える瞬間なんてあるのかな……。
「他にもこんな作品を読んでてさー」
未来ちゃんは色々な作品を見せてくれた。有名どころが紹介されると私の作品が浮くこと浮くこと。
中には当然のように未来ちゃんが声を当てたキャラクターが登場する作品もある。
「ほ、本当に好きなんだね。ラノベ」
「あー、疑ってたな〜? うんうん、好きだよ」
そりゃ疑っちゃうよ。だって見た目は本当に陽の中の陽って感じだもん。
それが私と同じ趣味だなんて……嬉しいな。
そこからお昼ご飯の時間はずっとラノベのお話しをしていた。
推しに褒められて死んでしまうほど嬉しい。
いつもよりやる気でみなぎっているかも!