039 推しから手渡し
いつも通り学校に来て、いつも通り未来ちゃんと楽しむ。
そんな軽はずみな気持ちで登校すると、未来ちゃんは私から顔を背けた。
え……私なんかした!? いや昨日は普通に「お仕事頑張ってね!」って背中を押していい感じに別れたつもりだけど!?
でもよく考えたら推しと対等にいられるなんてあり得なかったのかもしれない。これまでが夢だったんだ……東山文の物語、完!
いや終われるか!!
「み、未来ちゃん元気ない? 昨日何かあった?」
勇気を振り絞り、なんとか声も振り絞ることができた。
「な、何もないよ……」
「そ、そうなんだ」
そうは思えないが? よく見たら耳まで真っ赤だし! 何かに怒っているのだろう。
何か怒らせるようなことをしただろうか。花森学園:高等部の展開に納得できなかったとか? いやでも作者を知らない未来ちゃんが私に怒るわけないよな……。
「あ、あのね文ちゃん!」
「えっ!? あ……はい!」
突然大きな声で名前を呼ばれたので、反射で体がビクッと動いてしまった。
「クリスマス……何か予定ありますか?」
「なんで敬語? クリスマスはまぁ暇だよ」
恋人なんていないし、未来ちゃんのイベントにも行けないしな! 1人寂しく鶏肉を貪って執筆するつもりだったが?
半ば自暴自棄になった私に向けて、未来ちゃんは1枚の紙を差し出した。
「未来ちゃん? 何これ……」
「こ、これは……その……文ちゃんに受け取って欲しくて」
よくわからないままその紙を受け取ると、裏には『田原家4姉妹の日常〜スペシャルクリスマストークショー〜』と記されていた。こ、これはまさか……
「これって昨日話していた……」
「うん。トークショーのチケットです。もし良かったら文ちゃんに来てもらいたいなって」
「で、でもこのチケットは売り切れたはず! なんでここに!?」
「それは関係者席なんだ。私のパパママ……お父さんお母さんの隣の席になると思うけど、ごめんね」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!」
関係者席って、そんなんvip待遇ですやん!
「私に……いいの?」
「うん。文ちゃんにはどうしても来て欲しかったから」
「……どうしてそんなに私を?」
「……ひっ、秘密だよそんなの!!」
「えぇ……」
未来ちゃんは顔をまた真っ赤にして叫んで寝たふりをしてしまった。
よくわからないけど、喉から手が出るほど欲しかったトークショーのチケットが手に入ってしまった。しかも関係者席って。
すまないな全国の未来ちゃんファンよ。私はこの奇跡の巡り合いの結果、こんなに恩恵を受けてしまったぞ。
だが君たちの分は私が背負う! 絶対に楽しんでやるからな!!
明日の更新はお休みします。




